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【中本裕己 エンタなう】野蛮でグロテスクな人間の内面をえぐるモノクロフィルム 映画「異端の鳥」

 ホロコーストを逃れた少年がたった一人、疎開先の田舎を転々としながら差別や迫害と闘う。35ミリのモノクロームが静かに映し出すのは、人間が持ちうる野蛮でグロテスクな内面だ。残酷な映像美は169分もの長尺から観る者をとらえて離さない。昨年のヴェネツィア映画祭で「ジョーカー」以上に話題を集めたという映画「異端の鳥」(公開中)を見た後、言葉を失った。

 舞台は東欧のどこか。家族と離れ離れになった少年が老婆に預けられている。ほどなく老婆は病死した上、家が火事になり少年は放浪を余儀なくされる。「オリーブ色の肌に黒髪」という風貌から行く先々で異端視され疎(うと)まれる。

 物語は逃れた先々で出逢う人ごとに9章に分かれる。少年に対する酷い仕打ちだけでなく、厳しい大自然の中、閉鎖的なムラ社会を生き抜く人々の本性は時に正視に耐えないほどだ。暴力、迷信、嫉妬、憤怒、肉欲、性的倒錯…。まるで、地獄めぐりのロールプレーイングゲームを見ているようでもある。無垢だった少年にもやがて衝動的な怒りが育つ。

 原作は本国ポーランドで発禁に。そして作者は自殺。映像化が危ぶまれたがチェコの名匠ヴァーツラフ・マルホウル監督は、主人公の少年(俳優ではない)の成長に合わせて撮影に2年をかけ、虚心に人間の恐ろしさに迫った。

 実話ではないが場所が特定できないよう役者は人工スラブ語で演技をしている。少年のその後が気になった。(中本裕己)

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