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【中本裕己 エンタなう】ソ連全体主義を現代に再現した奇怪な重み すべてが生々しい、映画「DAU.ナターシャ」

 ソ連の全体主義社会を完全に映像で再現すると、人間はどうなるか。第70回ベルリン映画祭で物議を醸した映画「DAU.(ダウ)ナターシャ」は、登場人物の凡庸な会話の端々に漂う危険な空気に、観る者まで抑圧された気分になる。

 ソ連某所の秘密研究所で、多くの科学者たちが軍事的な研究を続けている。彼らが夜な夜な集う併設の食堂では40代の女盛りを隠さないナターシャと同僚オーリャの2人が切り盛りしていた。閉店後、片付けながら残りのシャンパンをあおるナターシャ。若いオーリャに嫉妬して取っ組み合いになることもあるが、2人は同志でもあった。

 ある日、常連の科学者たちがフランス人科学者リュックを招いてパーティーを開き、彼女らも参加した。酔うほどにナターシャはリュックに惹かれ肉体関係を持つ。幸せも束の間、ナターシャは冷酷なKGB捜査官に呼び出された…。

 出演者たちは、ソ連時代を再現したセットで約2年間、実際に暮らしながら撮影。本物の元ネオナチや元KGB職員も参加したとあって、すべてが生々しい。泥酔もセックス(本番?)も言葉責めも拷問も。そして、「ここにはプライベートなんてない」というナターシャの悲痛な言葉も。

 ロシアの奇才イリヤ・フルジャノフスキーによる「史上最も狂った映画撮影」は15年にわたり、本作はほんの序章に過ぎないらしい。いったい何を見せられているのか。重苦しい余韻が残った。

 順次全国公開中。(中本裕己)

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