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【中本裕己 エンタなう】生々しい先端企業と季節労働者たちの対比…車上生活の中で彼女が得たもの 映画「ノマドランド」

 ベネチア映画祭金獅子賞など各賞を受賞し、アカデミー賞でも有力候補に挙がる映画「ノマドランド」(公開中)。リーマン・ショックで、住んでいた企業城下町ごと家を失った中年女性が、ノマド(流浪の民)となる。車上生活をしながら大陸をさまよう後ろ姿は哀れなようで、凜(りん)としている。これもアメリカだ。

 ファーンは、長年住み慣れたネバタ州の住居を失い、キャンピングカーに亡き夫との思い出を詰め込んで、旅から旅へアルバイトで食いつなぐ。ある日は、アマゾン社の巨大な物流工場で荷物を梱包している。先端企業と季節労働者たちの対比が生々しい。

 ファーンを演じるフランシス・マクドーマンドは「ファーゴ」「スリー・ビルボード」に続き、本作で3度目のオスカー主演女優賞が期待されている。行く先々で出逢う実在のノマドたちと心の交流があり、また独立心への誇りも隠さない。彼女ならではの軸のある演技に惹き付けられる。

 代用教員だった頃の教え子と量販店で再会し、「先生はホームレスになったの?」と問われると、「わたしはホームレスではない。ハウスレスなの」と毅然と言い放つ。骨を埋める一軒家へのこだわりを捨て、心の拠りどころを得る。ファーンはオンボロ車でどこまでも続く道を走り、野営先で荒野や岩山、森の中へと自由に分け入る。

 クロエ・ジャオ監督は、ドキュメンタリーとフィクションの境界線を軽く越えてみせた。(中本裕己)

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