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喜怒哀楽に諦めと狂気…菅野美穂、尾野真千子、高畑充希のあまりにも見事な目の演技 映画「明日の食卓」

 28日公開予定の映画『明日の食卓』(瀬々敬久監督)はフラストレーションに侵食される母性、狂気と紙一重の母性を描き、見る者にずしんとした後味を感じさせる心理劇である。

 神奈川、静岡、大阪で暮らす石橋家のそれぞれの事情が描かれている。共通項は「イシバシ・ユウ」という小学5年生の男児を育てている点。

 神奈川在住の石橋留美子は43歳のフリーライターで、菅野美穂(43)が演じる。夫はフリーカメラマン。息子の名前は「悠宇」。

 静岡在住の石橋あすみは36歳の専業主婦。尾野真千子(39)が演じ、夫は都内に遠距離通勤するサラリーマン。息子の名前は「優」。

 大阪在住の石橋加奈は30歳のシングルマザー。演じるのは高畑充希(29)。アルバイトを掛け持ちしているが暮らしぶりはカツカツ。息子の名前は「勇」。

 母親はそれぞれの流儀で子育てし、家族に寄り添っているつもりだが、大人への自意識の入り口に立ち始めた年ごろの子供の思いは必ずしも親の思いとは合致しない。母親は我慢強く踏ん張り、日常をやりくりしようとするが、きしみは生じる。

 カメラは追い詰められる母性の心情を丁寧に追うが、同時に浮き彫りにするのは母性に寄りかかる父性のだらしなさだ。

 カメラマンの夫は仕事を失い、酒に溺れ、子供に暴力を振るう。遠距離通勤の夫は、隣近所の目を気にしながら生き、隣家の母親の面倒も妻におんぶにだっこ。シングルマザーは、女をつくった夫とは離婚したが出来の悪い弟が足を引っ張る。夫や子供のご飯を作るのも母親という少々古臭い生活習慣も「石橋家」に共通している。そして夫らは、何か問題が起これば、妻のせいにする。

 3人の女優が、生活を背負い、我慢を強いられる中で正気のかさぶたをはがされる母性を怖いぐらいに演じ切っている。

 目の演技が響く。菅野の目、尾野の目、高畑の目。そこに宿るのは喜怒哀楽に諦めと狂気。「死んだような目」「殺意が生まれた目」というものが実感できる。目力の表現は楽だが、その逆は難しい。3人の女優は、力のかけらもない目を見せる。あまりにも見事な目の演技。

 映画には4人目の「石橋」が登場する。一線を踏み越えてしまった「石橋」と、踏みとどまった3人の母親。彼女たちの先に希望があることを映して、映画は終わる。

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