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オペラで味わう能の幽玄 『Only the Sound Remains-余韻-』 日欧米の感性や知性が結集した秀逸な共同制作

 能を源にした新作オペラの「独創的な幽玄」にしびれた。開館60周年を迎えた東京文化会館で、6月6日に日本初演された『Only the Sound Remains-余韻-』は、日欧米の感性や知性が結集した秀逸な共同制作。斬新な表現による2作上演だった。

 第1部『経正』は一ノ谷で戦死した平家の公達・経正の亡霊が、僧侶の傍らで琵琶を奏でる。第2部は三保の松原の漁師が拾った天女の伝説による『羽衣』である。

 「あの世」の経正や天女を高声のカウンターテナーが、「この世」の僧侶や漁師を低声のバリトンが歌い、ダンサーの森山開次が経正の亡霊と天女を自らの振り付けで踊る。

 第1部は、経正を弔う黒衣の僧侶が「声は聞こえど姿は見えず…」と歌うと、舞台中央の大きな障子にカウンターテナーの影。この世の無常を嘆く声が電子音響で切なくゆらぎ、バスフルートの風音やカンテレの不気味な旋律に霊魂が覚醒する。上手から経正の亡霊の森山が阿修羅の形相で登場。

 やがて在りし日の名手、経正が奏でる琵琶の音が松葉のざわめきと交響し、雨風のような響きに。

 カウンターテナーと霊体の森山は、元は一つの心と体だが、共鳴し合って、消灯とともに亡霊が去るまで、この世とあの世の挾間の不思議な官能が満ちあふれる。

 第2部では、羽衣の返却を懇願する天女の高声を浜の漁師の低声が突き返す応答を、舞台空間の高低差を生かした音響の交差でドラマチックに演出。

 天女の森山は、衣を取り戻すと、軽やかな弦の音やささやくようなコーラスにかぐわしく舞い、心躍らせ富士のかなたへ…。

 生と死、魂と体、光と影、静と動、実在と不在…など、対極の要素の幻影的表現が聴衆の想像を終始かきたてた。音楽、吟誦のような合唱、ダンス、演出など、突き抜けた独創性の融合による魔力だ。再演が待ち遠しい。 (原納暢子)

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