【ピンスポ】(9)トレランス

2010.06.29


取材に応じた座長・上杉祥三【拡大】

 劇団紹介コーナー「ピンスポ」第9回は、80年代〜90年代の“小劇場ブーム”の象徴であった野田秀樹主宰の「夢の遊眠社」と鴻上尚史主宰の「第三舞台」、それぞれの看板俳優として大活躍をした上杉祥三と長野里美による、《SFストーリー×高い演劇力》のマッチングが要注目の演劇ユニット「トレランス」(http://members3.jcom.home.ne.jp/tolerance2002/)を紹介します。

 私生活では夫婦でもある上杉と長野。そんな2人が「年に1〜2本のペースでいいから自分たちの作品を展開していこう。そして、お客さんに対してだけでなく、若い俳優たちの出演の場も作る事で少しずつでもお世話になった演劇界へお返ししていこう」と、今から8年前に結成したのが本演劇ユニット・トレランスである。そのスタンスの根底は、まさにユニット名・トレランスの意味である「寛容」「寛大」そのものであり、そこから生まれる“新しい何か”こそが、このユニットの最終目的であるという。幅広い人脈を持つ2人ならではの、魅力溢れる出演者たちが毎公演名前を連ねる…演劇ファンならずとも心が踊る! 小劇場ブームを知る人も、そうでない人もぜひ1度劇場で今の2人が作り上げる世界に触れてほしい。

 来週7日から13日まで計8公演、池袋あうるすぽっとにて「アセンション・ミロク」の上演を控えたトレランスの稽古場へ。上杉を直撃した。

■俳優はお客さんあってのもの!

 80年代〜90年代の小劇場ブーム。野田秀樹主宰の「夢の遊眠社」は、その中でも最も注目されていた劇団であった。特に、86年の劇団創立10周年の際に、国立代々木競技場第一体育館にて3部作一挙上演を行い、1日で26400名もの観客を動員した快挙は、演劇関係者及びファンの間で伝説となっている。上杉の演劇人生、その前半は上記のような環境にあった。

 「1つの作品で、地方公演まで含めれば10万人もの観客を動員していましたからね。立ち見客がいないと、客席が全て埋まっていたとしても『ああ、今回はお客さん少ないなぁ』と舞台袖で言っていた。そして、今思うと、あの頃の自分に一言言ってやりたくなるのですが…それが当たり前だと思っていたところもあった(苦笑)。でも、ブームが去って、ようやく改めて色々と見つめ直すことが出来て…そしてハッキリと気付きましたね。『自分は本当に恵まれていたなあ。かけがえのない様々な財産をこの世界で得てきていたんだなあ』と…。財産とは人脈であり、経験であり、実績であり、そして何よりお客さんです!《俳優はお客さんあってのもの》ということを心から感じています。トレランスを続けていくことで、もっともっと演劇の奥深いところまで感じ取っていきたいと今は思っていますね」

■演技が上手であることよりも、《魂》を持っていることが重要!

 これまでプロデュースチームなどでも作・演出を行ってきた上杉。とは言え、トレランスを始めてからは、その作風が徐徐に変わってきているという。

 「昔は古典演劇なども手掛けていたのですが、トレランスでは『目に見えない世界』『精神世界』といった仮想(非現実)の世界を舞台にしたオリジナルストーリーを中心に展開しています。歴史上の人物をモチーフにした大河ドラマやノンフィクション、ドキュメンタリーが流行っている今ですが、古今東西、大ヒットした作品『ハムレット』『四谷怪談』『アラビアンナイト』そして『西遊記』などなど、全て“お化けもの”ですからね(笑)。とは言え、そこにリアルを感じられない、作者の単なる空想物語ではいけないと思うんです。仮想の物語と言えど、その裏付けとなるディティールを細かく肉付けしてなくてはいけません。もちろん、それには入念な下調べが必要です。私も本公演『アセンション・ミロク』を書き始める前に、関連本を何十冊も読み、関係者に取材しに行ったりとしています。そのほとんどが無駄になるとしてもです(笑)。ただ、そういう、舞台上では見えない部分がしっかりあるのとないのでは全く違うと思いますね。そして、それを演じる役者が、演技が上手であることよりも、《魂》を持っていることが重要だと思います。いつの時代の世界のどこでも、観客に想いを伝えることが出来るのは、キレイな魂を持ったパワーのある役者ですよ!」

■これだけ大勢の人を巻き込む位なのだから、きっと何かがある

 本公演は、映画「2012」でも取り上げられた2012年問題(マヤ文明において用いられていた暦の一つ長期暦が、2012年12月21日から先の記述がないことから、そこで「人類が滅亡するのではないか」「地球が変わるのではないか」といった論争が起きている)をモチーフとしたSF推理サスペンスだ。

 「聖書やノストラダムスも、実はこの2012年を警鐘していたのではないかとまで広がっているだけでなく、そういった世界とは正反対の科学者までが、この問題に真剣に取り組んでいたりする……自分自身は全部信じてはいないけど、全部否定も出来ないところがあったりする。これだけ大勢の人を巻き込む位なのだから、きっと何かがあるんだと思えてしまうんですよ(笑)。本公演『アセンション・ミロク』は“闇の政府がひた隠しにしている情報がある”という完全に架空のストーリーです。でも、書き進めていく内に“本当にこれは架空の話なのか”と思ったりもしてしまう。41年前、オンタイムで人類が月に降り立つところを見ていた自分としては、その後、スペースシャトルが空のちょっと上くらいを飛んでいるだけでメディアが大騒ぎしていることに違和感を覚えてしまう。あの時、本当に人類が月に行っていたとしたら、その時に何かがあり、それ以降その何かをひた隠しにするために……全くあり得ない話じゃないですよね」

■日本語には力がある!

 上杉の演出は2つの事に特にポイントを置いている。動きと言葉を大切にすることだ。

 「役者をよく動かしますね。やっぱり、動物園へ行っても、ずっと動かないでいるパンダより動きがあるサルのほうが長時間見ていても飽きないじゃないですか。一緒にしては悪いですが(笑)。客寄せパンダだけでは、『また見にこよう』と思ってもらえないですからね。そして、何より言葉を大切にしています。理由は分かっていませんが……水を凍らせる際に『ありがとう』という言葉をかけながらやる実験が行われたことがあるそうですが、世界中の感謝を表す言葉(例えばサンキューなど)の中で、最も「ありがとう」という日本語で声を掛けながら凍らせた氷の結晶が美しいものだったといいます。日本語には力があるんです! 役者はそういった意味からも、1つ1つのセリフを大切にしなくてはいけないと思いますね」

■『本当かもしれない』を、面白い舞台作品にしていきたい!

 最後に本公演に向けての意気込み&コメントをいただいた。

 「この世界には分からないけれど『本当かもしれない』というものが溢れています。そして、そこにドラマが見え隠れします。そういったものを面白い舞台作品にしていけたらいいなと思っています。そして、お世話になった演劇界に少しずつでも恩返ししていきたいですね。ぜひ劇場に足をお運び下さい!」

★トレランス新作公演 『アセンション・ミロク』

【日程】7月7日(水)〜13日(火)/計8ステージ

【会場】池袋あうるすぽっと

【作・演出】上杉祥三

【出演】上杉祥三、長野里美/岡森諦(扉座)、平野勲人、高木稟(転球劇場)、篠山美咲、太宰美緒/坂本三成、円堂耕成、板津未来、大谷秀一郎、山形啓将、古賀信義、夏谷理恵、内村遥、小石川祐子、川又麻衣子、石神まゆみ、宮田智佳、三上奈穂、渋谷弥生

【サイト】http://members3.jcom.home.ne.jp/tolerance2002/

■取材先劇団募集

「ピンスポ」は取材先劇団・ユニットを大募集中です。詳細は本コーナーをプロデュースするコンテンツプロダクション・株式会社ルートデザイン公式サイトまで! http://contents-pro.com

■チケットプレゼント

トレランス新作公演「アセンション・ミロク」の7月7日(水)午後7時〜、8日(木)午後7時〜に各5組10名様の計10組20名様をご招待致します! お申込は演劇ライフ(http://engekilife.com/)のプレゼントコーナーより。

次回(第10回)の掲載は7/6(火)です。お楽しみに!!

 

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