全聴覚を失いながら壮絶な創作活動を続け、米誌タイムで「現代のベートーヴェン」と紹介された現代の作曲家、佐村河内守(さむらごうち・まもる)氏(49)。演奏時間80分を超える「交響曲第1番《HIROSHIMA》」のCDが発売から1年8カ月を経て、累計出荷枚数12万枚を突破した。クラシックでは異例の売れ行きだ。
引き金となったのは、3月31日の夜に放送されたNHKスペシャル「魂の旋律〜音を失った作曲家〜」。視聴率こそ6・8%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)だったが、視聴者の反響は大きく、「感動に震えた」「涙がとまらない」「どうしてこんな大作が書けるのか」といった声がネット上にあふれた。
佐村河内氏は広島生まれの被爆二世。10歳の頃から作曲を志し、ゲーム「鬼武者」「バイオハザード」の音楽でも知られるが、17歳から原因不明の偏頭痛や聴覚障害に悩まされてきたという。
番組では、35歳で全聴覚を失うなど数奇な半生を紹介。抑鬱神経症などで、太陽の光でも体調に異変が生じることから、カーテンを閉ざした暗闇の部屋で、絶対音感を頼りに唸りながら作曲に没頭する衝撃的な姿が、そのまま放送された。
クラシックに精通した音楽ジャーナリストが、その魅力を語る。
「彼の交響曲は、ベートーヴェンやマーラーのように、苦難を突き抜けて歓喜を求める人々の呻吟(しんぎん)が重厚な旋律に描かれている。再現するには100人を超える大編成のオーケストラが必要で、公演のたびに感動を生んでいます」
とくに東日本大震災以降は、彼の交響曲が被災した東北で「希望のシンフォニー」と受け止められ、全国でも突出した売れ行きを記録した。8月18日には、震災で天井が崩落して大改修工事が修了した神奈川・ミューザ川崎ホールで再演されることが決まっている。
異例の売れ行きに、当の佐村河内氏は「私の曲が全国の多くの方に聴いていただけるのは、とても幸せなことだと感じています」と語る。
オリコンのアルバムデイリー総合ランキング(4月1日付)で3位となったことには、「クラシックのジャンルである私の曲が、ポップスの有名曲の中にクレジットされているというのは、不思議な気持ちになりましたが、とても意義深いことだと思っております」と話している。
佐村河内氏を紹介したNスペは15日午後3時5分から再放送される。