ニューイヤーを迎え、米国の映画ファンは忙しくなってきた。3月のアカデミー賞授賞式を頂点とした賞レースがスタート、年明け早々の12日には同賞の前哨戦と言われるゴールデングローブ(GG)賞の授賞式が行われる。そのTV中継を前に、1年で最も秀作ラッシュの今、できるだけ見ておこうとファンの映画館詣でが始まっているのだ。
ハリウッド外国人映画記者が選ぶGG賞。映画部門では、アフリカ系米人の12年間の悲惨な奴隷生活を描いた「それでも夜は明ける」と、クリスチャン・ベールがFBIの囮(おとり)捜査に協力するハゲ頭の詐欺師を巧みに演じ笑わせるコメディー「アメリカン・ハッスル」の2つの実話モノが最多7部門で候補にあがっている。
賞の対象になる年末ギリギリの駆け込み公開も多く、常連メリル・ストリープはクリスマスに封切られた「8月の家族たち」で、主演女優賞にきっちりノミネートされている。
見応えある作品は全米公開の大作より限定都市(通常NYとLA)で上映される小品に多い。その1つが、セクシーなコンピューターの声に恋する男をホアキン・フェニックスが感動的に演じ主演男優賞候補に選ばれている「HER」。この刺激的な作品にお預けを食った地方ファンの不平が聞こえてきそう。
さらに日本の洋画ファンはもっとカワイソーかも。今年のGG賞の作品賞や主演・助演賞候補に関係した20作品を見ても、日本で封切られたのは「キャプテン・フィリップス」と「ゼロ・グラビティ」の2本だけ。これじゃあ賞に興味が沸かないのは当然だろう。
今回GG賞では名匠ウディ・アレン監督に功労賞が授与されるが、彼の話題作でケイト・ブランシェットが主演女優賞の最右翼と目されるのが「ブルージャスミン」。投資家の夫が巨額の詐欺で逮捕され、資産すべてを政府に没収される。妻ジャスミンの転落の人生を、ケイトが繊細な演技で魅せる。
本作は昨年7月に米国封切り後、字幕スーパーや吹き替えが必要な国を含め、世界32カ国で公開され絶賛された。日本では今年5月の公開予定。10カ月も待たされる日本のファンは怒るべし。海外の秀作の数々をリアルタイムに語れない封切り“途上国”日本、何とかならないものか。
そんな中、日本人が注目するのが、アニメ作品賞でなく外国語映画賞にノミネート中の宮崎駿監督の「風立ちぬ」だ。同部門ではカンヌ国際映画祭の受賞作「アデル、ブルーは熱い色」など強敵がひしめく。最後の宮崎作品の受賞なるか。
タイム誌の映画評論家に「総括するのが難しい複雑な作品」と評された「風立ちぬ」は、今月16日に最終候補発表のあるアカデミー賞では、長編アニメ部門でノミネート確実と予想されている。 (板垣眞理子)