音楽好きの団塊の世代なら、「僕らはビートルズと共に生きた」と、若者に優越感を覚える場面があるかもしれない。そんな思いが詰まった米CBSテレビの特別番組「アメリカを変えた夜」が今月9日に放送され、大反響を呼んでいる。
半世紀前の1964年2月7日、英国の人気ロックバンド、ビートルズが米国に上陸した。9日は当時の名物番組、エド・サリヴァン・ショーで米国デビューを果たした50周年の記念日だった。
特番では、録画撮りの前日、ロスで行われたグラミー賞授賞式の流れで、超豪華ゲストが多数出演しビートルズを歌った。主賓はもちろんポール・マッカートニーとリンゴ・スター。そしてジョン・レノンの未亡人、ヨーコ・オノの姿もあった。御歳80のヨーコさん、とてもお若い。
当時、ビートルズの米国“侵略”は大事件だった。ミュージシャンの登竜門であるエド・サリヴァン・ショーに出演した彼らの演奏と集まった若い女性たちの絶叫は、大人たちの度肝を抜いた。
ニューズウイーク誌は「悪夢だ。彼らはすぐ消える」と伝え、ボストン・グローブ紙が「音楽じゃない」と断じるなど英国の4人組は酷評されたが、メディアが完全に間違っていたことは後の歴史が証明した。
特番のステージではまず「オール・マイ・ラヴィング」を歌うビートルズのおなじみのモノクロ映像に、現代の人気ロックバンド、マルーン5が張りのある声で重ねた。上手い演出に客席のポールやリンゴものっけからノリノリだ。
スティービー・ワンダーの「恋を抱きしめよう」に続きイーグルスのジョー・ウォルシュらがジョージの曲「サムシング」を息子のダーニ・ハリソンと共演する。人気ブルースギタリストのジョン・メイヤーとカントリー界のスター、キース・アーバンの「ドント・レット・ミー・ダウン」のコラボには泣けた。
感慨深げに耳を傾け、じっと舞台を見つめるヨーコ。父ジョンに生き写しのショーン・レノンが、真剣に口ずさんでいる。ジョンには生きていてほしかった…と、無念さが脳裏をよぎる。
トリを飾ったリンゴとポール。73歳のリンゴはリードボーカルを務めた「ボーイズ」を披露したのをはじめ、歌とドラムの見事なエンターテインメント性で魅了し、場内は総立ち。
ポールは記念日にちなんで「バースデー」から。この曲が入った“ホワイト・アルバム”をその昔、誕生日にボーイフレンドからプレゼントされた私は胸がキュンとした。2人のデュオやポールの「ゲット・バック」など名曲が続き、「ヘイ・ジュード」でフィナーレ。本当に感動のステージだった。
特番の企画を聞いて71歳のポールは当初、「自分で自分を褒めるようなものは…」と渋った。だが、ある米国人に「50年前あの番組を見て、多くの人の人生が変わった」と聞かされ、承諾したという。偉大なビートルズにサルート(敬意を)! (板垣眞理子)