今年でデビュー40年目を迎えた女優の池上季実子さん(55)。7月下旬に刊行された初めての著書『向き合う力』(講談社現代新書、760円+税)では、これまで「語る機会のなかった」過去を赤裸々につづった。両親との葛藤、学校でのいじめ、離婚と子育ての日々、公表しなかった事故による後遺症…。波瀾(はらん)万丈の半生を「すべての経験には意味があった」と振り返る。
−−本のきっかけは
「『本を出しませんか』というお話をいただいて、じゃあ何をテーマにしようかと打ち合わせをしていたとき、『それじゃちょっと、小さな頃からのことを話してください』といわれて軽くお話ししたら、『それで十分本になります』と。隠していたわけではないの。でも、会話と違って本は残るし、周囲の方を巻き込んでしまうことになる。だから誤解のないようにと、何度も打ち合わせをして作りました」
池上さんはニューヨークで生まれ、3歳まで米国で過ごし、帰国後は京都で育った。父は商社マン、母は歌舞伎俳優・8代目坂東三津五郎さんの次女だ。だが、父は些細(ささい)なことで家族に怒鳴り散らし、手をあげた。灰皿に吸い殻が2本たまると、灰皿を替えないことに腹を立て、夕食で肉片を2つ続けて食べようとしただけで、深夜まで延々怒られた。母はそんな父から子供をかばってくれることはなかったという。
−−お父さんは「厳しい」という言葉ではとても表せない方だった
「子供の頃は辛かったです。父から常に『お前はダメな人間だ』『何か問題があれば、お前が悪いと思え』と言われ続けた。だからこそ、この仕事を始めたとき、周りの大人が私を認めてくれるのが、良い意味で強烈な驚きで、本当にうれしかったんです。それまでは『自分はダメな人間なんだ』と思い込んでいましたから」
「父は昭和4年生まれで、今も健在です。でもね、…父と(の和解)は難しそうです。私、この20年くらいの間に何度かトライはしたんです。つい先日もトライしたんだけれど、父がいきなり怒り出したことがありました。父が怒り出した途端、私は昔の私に戻って『もうダメだ』って思ってしまうのね」
「でも父は愛情がないわけではないんです。12歳のとき両親の離婚が決まって、母と東京に向かう日、父は電車のドアが閉まった瞬間、ホームで泣き崩れました。父はただ、かたくなで、不器用で、愛情表現の方法がわからないのでしょう。一つ下の弟もそのときの父の姿を覚えているそうです」