『広告批評』 広告文化の爛熟期に乱れ咲く

2015.07.08


「広告批評」1981年8月号【拡大】

 果物は熟して、木から落ちかける寸前が一番おいしいという。文化も爛熟(らんじゅく)期が最も面白い。広告が成熟し、世の中の王道を歩き始めた1970年代末に生まれた雑誌が「広告批評」。

 資生堂やサントリーなど予算豊富なTVCMが話題となる時代だった。その後、おのおのニュース番組などでコメンテーター役も務めていた天野祐吉が発行人、島森路子が編集していた。

 最初に見かけたのは学生時代、大学近くの小書店。1980年9月号「広告文化をリードした10の論文」との特集タイトルと各論文表題が表紙に印刷されていた。「こんなやりかたで雑誌が成立するんだ…」といたく驚いた。

 世の中を半歩先取りするのが広告だと思っていたのに、初めて見かけたその業界誌(?)特集が、20年ほど以前に書かれた論文を再発掘して掲載するものだったから。

 その後も同誌は業界の枠をはみ出した特集を連発し、筆者は愛読者になった。テーマは、「パロディ」や「家庭」から「にほん語」、そしてタレントが自ら出演したCMの批評を行うものまで幅広かった。「戦争中の宣伝」特集では、太平洋戦争時の広告を再録し、糸井重里ら当時のトップクリエイターに反戦広告コピーを書いてもらっていた。

 ツービートが「朝日ジャーナル」に「ファシズムの尖兵」とたたかれれば、「それって違うよ…」とあらがうかのように、「わッ、ツービートだ!」特集を組んだ。

 タモリがメジャーになりかければ特集を組むし、イッセー尾形が出はじめればインタビューを載せる。その後も野田秀樹や柄本明、橋本治らをフィーチャーし、カルチャー全般に目端を利かせ勢いのあるリトルマガジンという体だった。

 ただ、はじめて同誌を見かけた時の興奮は徐々に醒めていった。誰も関心を持たぬような過去の論文を引っ張り出してきて「今こそここに眼を向けるべき」と論じたのは、まさに編集のセンス。しかし、その後同誌が取り上げた事象や人物は、すでに各方面で注目されたものが多くなっていた。

 編集者の感性が時代と並走状態になってきたのだろうか。柿はもうポトリと地上に落ちてしまったのかもしれない。

 時は常に移ろう…今なら最前線で熟しかける寸前なのは例えばIT業界だろうが、そんな時こそ、超盛り上がってる奴の耳元で「あと数年だよね」とつぶやいてみたい気もする。 =敬称略 (矢吹博志)

 

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