八神純子が最新アルバム「There you are」を引っ提げたツアーの初日(16日、東京・オーチャードホール)を覗いた。米国居住後、子育てなどで一時ブランクがあったが、ここ数年はライブ活動に精力的だ。地声からファルセットまで途切れない筋肉質の歌唱力は健在で、ファン層が幅広くなってきた。
メジャーデビューした20歳の頃の「思い出は美しすぎて」は、50代後半の今、詞に深みが加わる。誰もが動画サイトで往時と現在を手軽に比較できる残酷な時代だが、彼女はまったくキーの高さが変わっていないことに驚くだろう。
披露した22曲の半数以上を新譜と1つ前のアルバム「Here I am」で構成。ブラス、ストリングスを交えたバンドも盤石で、ボサノバ、ラテン、ソウル、ポップスと垣根なくメロディアスな曲を繰り出す。
途中、元オフコースの鈴木康博とのデュエット曲「生きるから」を披露。歌に昭和生まれへのエールを込めたという。東日本大震災への復興支援を続ける中、宮城県女川町で出会った女性の実話がベースとなって生まれた「1年と10秒の交換」には、いつでも会えると思っている人との大切な時を刻んだ。
もし自分が先立っても思い出を強く抱きしめてほしいとピアノ弾き語りで歌い上げる「約束」は前作アルバムの傑作だがあまりに切ない。悲しいことも、楽しいこともある人生を愛おしむようなコンサートだった。
31日=大阪・森ノ宮ピロティホール、2月7日=厚木市文化会館など。 (中本裕己)