ここ10年くらいでしょうか、テレビやスポーツ新聞で報道される芸能人の訃報に<孤独死>という言葉をちらほらと見るようになりました。広辞苑を引くと、孤独死とは、「看取る人もなく一人きりで死ぬこと」とあります。こんな言葉は、私が子供の頃にはありませんでした。核家族化、都市化が急激に進み、血縁、地縁が希薄になったことを背景に生まれた言葉であることは間違いなく、広辞苑にこの言葉が載ったのは、2008年に改訂された第6版からだそうです。
尼崎で在宅医療に従事している私にしてみれば、孤独死は決して特別なものではありません。冬になれば必ず警察に呼ばれます。しかし華やかな芸能界の世界に身を置いていた人が孤独死をすると、そこに光と陰のイメージを持つからでしょう、言葉だけが独り歩きをしているような印象を受けることもあります。
中でも、「少し愛して。長−く、愛して」というウィスキーのコマーシャルなどで一世を風靡した絶世の美女、女優の大原麗子さんが亡くなったとき、「孤独死」とマスコミが大きく伝えたことは、皆さんの記憶にも残っているのではないでしょうか。大原さんは、先の広辞苑にこの言葉が載った翌年、2009年8月に亡くなられています。62歳の若さでした。生きていれば今年古希を迎えています。俳優の渡瀬恒彦さん、森進一さんと二度の結婚、離婚をした後は、おひとりで豪邸暮らしをしていたそうです。
2週間近くも連絡が取れないことを不審に思った弟さんが、地元の警察署に連絡を入れたのが2009年8月3日のこと。そして8月6日に、弟さんと警察官が大原さんの自宅に入って、すでに事切れていた大原さんを発見しています。大原さんは、右手を伸ばすようにして亡くなっており、その手の15センチ先には、携帯電話があったそうです。鍵がかかっていたので事件性は低いものの、誰かに看取られなかった死は不審死の扱いとなり、ご遺体は警察署の霊安室に搬送されて、検視官による調査が入り、その後、司法解剖をされました。