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【当てちゃる券】波瀾万丈豚骨ラーメン一代記(下)

<<2017年2月25日発行、夕刊フジから>>

 「自信はまったくなかったよ。オープンしたけど、一年もつやろか? お客さん来るやろか? 不安だったよ。だからもっとおいしくなるよう毎日毎日研究したよ」

 競輪選手を引退した金田和浩先輩(福岡55期)がラーメン屋を始めたのは、程なく私の耳にも入ってきた。

 先に食べに行った後輩は「あの金田さんが…。意外だけど、おいしかったです」。そう言った。「あの金田さん」だが、お世辞抜きで褒めてるのが分かったので私も気になって食べに行った。意外だったが、うまかった。

 金田家ラーメン最大の特徴は、豚骨特有の臭いがないのだ。特に関東にはあの臭いがダメという人が多い。煮立った寸胴をのぞかせてもらったら、ほのかに甘~い匂いがした。クリーミーな豚骨スープは他所とはひと味違っていたな。

 情報はクチコミでも広がったが、私はネットでの拡散が追い風になったように思う。時流に乗ったのだ。

 それからの快進撃はすごかった。12年から2年連続でグルメブログの福岡県ランキング1位を獲得。香港の大富豪が金田家のラーメンを気に入り、香港にも開店。英国ロンドンには、博多の名店・一風堂の目の前に堂々と店を構えた。

 英国は物価が高い。一杯2800円もするラーメンをイギリス人がおいしそうに食べる映像を見た。4月には念願の博多店をオープン予定。いよいよ本丸に殴り込む。

 「俺は練習する素質がなかった。もっと汗かいてたらもう少しマシな選手になれとったかの? そやけど今は、日本一汗かいてラーメン作ってる。もっと大きくなるけの」

 彼はそうつぶやいた。私は「英雄色を好む」という言葉と彼の“自慢の鎌首”を思い出した。 (このエピソード完)

(元競輪選手)

■内田浩司(うちだ・こうじ)1962年8月26日生まれ。福岡県出身。83年4月に51期生としてデビューし、S級上位で活躍。2015年10月29日に引退。通算435勝、優勝34回(記念Vは92年門司記念など6回)。FI先行・吉岡稔真(としまさ=福岡県65期)元選手の兄弟子で連携は多数。実直な性格と厳しい指導から“鬼軍曹”として恐れられていた。夕刊フジ競輪面にコラム『当てちゃる券』を連載中。

※原則として新聞掲載時のまま再録していますが、一部加筆・修正を行っています。