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【当てちゃる券】競輪は人間が走るもんやから

≪2017年10月2日発行、夕刊フジから≫

 かつて競りは『競輪の華』と呼ばれた。時代を彩った一流マーク屋同士のメンツと意地のぶつかり合いは、見る者を興奮させた。ところが今は大ギア全盛時代。先行屋の戦法も押さえ先行からカマシ先行が主流になり、競りは踏み出しで決まり、がっぷり四つの勝負は少なくなった。

 そんな中、先月武雄で行われた共同通信社杯で、気になる競り合いを見た。3日目の第8レース、高橋和也(愛知91期)の後ろを同県の伊藤正樹(71期)と、近藤龍徳(101期)がバチバチに竸っていたのだ。

 中部といえば、固い結束力で戦うことで有名な地区だ。同県で競るなんて福岡県じゃあるまいし、とわが目を疑った。聞けばホームバンクはともに名古屋。この場合、高橋-近藤-伊藤で並ぶのが自然だ。恐らくソリが合わないふたりなんだろう。

 「ケッ、あの野郎のケツなんか死んでも回るつもりはねえでな」

 伊藤の心中はこんな気持ちだったに違いない?

 「点数は俺のほうが持っとるし、先輩いつも切れ目からのまくりばかりじゃない、なにをいっとるの?」

 かたや近藤は、こんな感じだろう。これもメンツと意地のぶつかり合いだ。私は思わず高井広明(岐阜58期)に電話した。

 「まぁ、ふたりとも頑固ものやでねぇ、しようがないですわ。それに競輪は人間が走るもんやから。僕なんかはすぐに心が折れてまって前を回してまうでなぁ。男が折れたらあかんのは“中折れ”だけすわ、ねえ先輩?」

 私は携帯を耳に当てたまま深くうなずいた。(元競輪選手)

■内田浩司(うちだ・こうじ) 1962年8月26日生まれ。福岡県出身。83年4月に51期生としてデビューし、S級上位で活躍。2015年10月29日に引退。通算435勝、優勝34回(記念Vは92年門司記念など6回)。FI先行・吉岡稔真(としまさ=福岡県65期)元選手の兄弟子で連携は多数。実直な性格と厳しい指導から“鬼軍曹”として恐れられていた。夕刊フジ競輪面にコラム『当てちゃる券』を連載中。競輪祭では特別コラム『小倉競輪祭 なう&リメンバー』を執筆。

※原則として新聞掲載時のまま再録していますが、一部加筆・修正を行っています。