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【当てちゃる券】師匠と弟子 己の慧眼の無さを嘆いた

 徒弟制度がある職業といえば主に職人の世界だが競輪選手や落語家、それに将棋の棋士もそうだ。

 今をときめく藤井聡太二冠の師匠は杉本昌隆八段。玄人好みの渋い中堅棋士だが、藤井二冠を弟子にしたときのエピソードが面白い。

 コメダ珈琲で注文したクリームソーダのアイスをしきりに沈めようとしていたので、「アイスを食べるかソーダを飲まないとコップからあふれちゃうよ」と言うと、聡太少年はニコリともしないで黙って聞いていた。

 「この子には教えることがあまりないかもしれないな」と思ったと杉本八段は回想しているが彼の将来を予感していたとしたらすごい慧眼(けいがん)だ。

 オレが26歳だったかな? 師匠は誰に頼まれたのか一人の高校生を競輪場に連れてきていた。

 オレの顔を見るなり「この子を弟子にしようと思うけど、お前どう思う?」と言い、その場でジャンプやダッシュをやらせた。ひょろっとした少年の動作が弱々しく見え「練習に付いていくのは無理なんじゃないですか」とオレは偉そうに答えていた。

 それが吉岡稔真(福岡・引退)との初めての出会いだった。始めの頃はオレのメンツも保たれていたが、その才能はすぐに開花し、悔しいかな彼が売り出し始めた頃には、もう何をしてもかなわなくなっていた。

 師匠が初めから彼の非凡さに気づいていたのかは分からないが、この時つくづく己の慧眼の無さを嘆いた。それがトラウマという訳じゃないがオレは弟子に縁がない。今思えば一人くらい手塩にかけた弟子を育ててみたかったな。

 松戸記念決勝9Rは千葉2人と近畿2人に単騎が3人と細切れ模様。ここは地元3割増しの法則で気合駆けの岩本と好調・鈴木の地元表裏〔7〕⇔〔1〕-〔2〕〔4〕〔5〕。(元競輪選手)

■内田浩司(うちだ・こうじ) 1962年8月26日生まれ。福岡県出身。83年4月に51期生としてデビューし、S級上位で活躍。2015年10月29日に引退。通算435勝、優勝34回(記念Vは92年門司記念など6回)。FI先行・吉岡稔真(としまさ=福岡県65期)元選手の兄弟子で連携は多数。実直な性格と厳しい指導から“鬼軍曹”として恐れられていた。夕刊フジ競輪面にコラム『当てちゃる券』を連載中。競輪祭では特別コラム『小倉競輪祭 なう&リメンバー』を執筆。