【酔っぱライターのお酒見聞録】チューハイブームに火をつけたネーミング「ハイサワー」の誕生秘話 

家庭用のペットボトルと居酒屋でお馴染みのレトロなガラス瓶(写真)。こちらはリターナブル

★東京都「ハイサワー」(上)

 アルコール市場で、数年前からダウントレンドとなったビールに代わり、勢いを増しているのがチューハイだ。

 チューハイとは、焼酎などをベースに、炭酸水と果汁などで割ったいわば「和製カクテル」。チューハイの「元祖」とされる飲み物や店はあちこちにあり、その歴史は諸説あるが、「○○ハイ」や「○○サワー」といったネーミングは、ハイサワーがもとになったという説が有力だ。

 「♪わ・る・な・ら・ハイサワー」というCMでおなじみのハイサワーが誕生したのは、1980年。チェーン居酒屋が増えて、ちょうどチューハイがブームになった時期と一致する。

 ハイサワーをつくっているのは、東京都目黒区にある博水社。社員20人ほどの小さな会社だ。もとはラムネやかき氷のシロップなどをつくる会社だったが、夏場だけしか需要がなかった。そこで二代目の田中専一前社長は、「お酒なら通年需要がある」と考え、初めは酒を割るビールテイスト飲料を試作した。しかし、6年がかりで完成させたレシピは、原料会社が倒産してあえなく頓挫する。

 意気消沈した田中前社長は、気分転換にと、娘2人とアメリカ旅行へ出かける。そこで目にしたのが、さまざまなカクテルだった。「そうか! ビール味にこだわらず、日本のカクテルをつくろう」

 当時、中目黒の「ばん」という居酒屋で、焼酎を炭酸とレモンで割った飲み物が評判となっていた。これをヒントにレモン味の炭酸飲料を開発。原料にはとことんこだわり、レモンはイタリアのシチリア島まで仕入れに行った。

 今もハイサワーのレモンはシチリア産だ。苦みが少なくジューシーなレモンを、半分にカットして真ん中だけを搾り取っている。隠し味に少し白ワインを入れ、コクとまろやかさを出したのは、妻・久子の発案だった。

 これを「我が輩のサワー」だから「ハイサワー」と名付け、新商品として売り出した。ターゲットは焼酎を出す居酒屋だ。もちろん、小さなラムネ屋には、販路もなければ営業マンもいない。しかし、田中前社長には秘策があった。

 ■江口まゆみ 酔っぱライター。世界中の知られざる地酒を飲み歩き、日本でも日本酒、焼酎、ビール、ワイン、ウイスキーのつくり手を訪ねる旅を続ける。近著は『ビジネスパーソンのための一目おかれる酒選び』(平凡社刊)。