【酔っぱライターのお酒見聞録】小規模酒造でこだわりの傑作 金光酒造・社長「本来のつくりかたで、つくらせてほしい」

評判の「賀茂金秀」

★広島県「賀茂金秀」(上)

 広島で、銘酒としてここ数年脚光を浴びている酒がある。賀茂金秀(かもきんしゅう)だ。15年前に誕生した新しい酒で、東京農大を出た金光酒造の社長杜氏がつくっているという。

 広島・西条から40分ほど路線バスに揺られて着いた蔵には、「桜吹雪」という大きな看板はかかっているが、賀茂金秀のかの字もない。

 「桜吹雪は親父の代までの普通酒で、今は総生産量の1割くらいしかつくっていません」。そう話すのは、社長の金光秀起さんだ。金光社長は、大学を98年に卒業し、すぐに家業を継いだ。じつはそれ以前の91年に、蔵は液化仕込みを導入していた。

 液化仕込みというと、灘・伏見の大手メーカーのものというイメージが強いが、人手のない小さな蔵が導入している技術でもある。なにせ米洗いの手間がない。米も蒸さない。生米と麹を装置に入れ、液化酵素でドロドロに溶かしてしまう。5時間ほどで仕込み完了だ。これで3~4人は省力化できる。

 金光社長は普通酒ばかりの酒づくりにあきたらず、特定名称酒をつくりたかった。そこで、山田錦で精米60%の特別本醸造を液化仕込みでつくらせてもらった。

 「でも、ダメなんです。一言で言うと、酒にコシがない。日本酒というのは、米を溶かすのも麹の役目で、デンプンを糖化しながらアルコールに変えていく。これを並行複発酵というのですが、液化仕込みはそれがない。百歩譲って普通酒には良いかもしれませんが、特定名称酒(本醸造、純米酒、吟醸酒など)には使えません」

 金光社長が「タンク1本だけでも液化ではない、本来のつくりかたで、つくらせてほしい」と頼み込むと、杜氏はしぶしぶ承知してくれた。

 こうしてつくった酒を、屋号の「正月屋」という名前をつけて売り出したところ、雑誌「特選街」が主催する日本酒コンテストの純米吟醸の部で、いきなり全国7位となる。

 しかし、賞を取っただけで売れるほど、日本酒業界は甘くない。ブランド力がない酒は、よほど店頭ですすめてくれないと見向きもされないのだ。実力のほどはわかったので、次は販売力をどうするかだった。

 ■江口まゆみ 酔っぱライター。世界中の知られざる地酒を飲み歩き、日本でも日本酒、焼酎、ビール、ワイン、ウイスキーのつくり手を訪ねる旅を続ける。近著は『ビジネスパーソンのための一目おかれる酒選び』(平凡社刊)。