【酔っぱライターのお酒見聞録】賀茂金秀、味とネーミングで全国区へ 自由につくった地酒が全国7位になるも、名前にダメ出しされ…

すっかり人気の「賀茂金秀」(右)と「特別純米酒13」

★広島県「賀茂金秀」(下)

 広島で今銘酒として脚光を浴びる「賀茂金秀(かもきんしゅう)」は、金光酒造の社長杜氏・金光秀起さんが20年前につくった酒だ。

 それまで金光酒造は「桜吹雪」という普通酒をつくる平凡な蔵だった。しかし、東京農大で酒づくりを勉強した金光社長は、普通酒に飽き足らず、吟醸や純米といった特定名称酒がつくりたかった。

 そこでその時の杜氏に頼み込み、タンク1本だけ自由につくらせてもらった。その酒が、いきなり「特選街」の日本酒コンテストで、全国7位に入賞したのだ。よほど旨かったに違いない。

 これをどう売っていくか、金光社長は悩んだ。「桜吹雪」は地元の居酒屋などに卸していたのだが、そのルートには乗せたくなかった。地酒専門店の店頭に並べ、個人のお客さんに選ばれるような酒にしたい。

 広島で最も大きな地酒専門店である「酒商山田」に相談すると、酒の味は高く評価されたが、ネーミングにダメを出された。当時は屋号からとった「正月屋」という名前を使っていたのだ。そしてフルネットの中野繁社長を紹介された。

 フルネットは、日本酒関連の書籍を出版したり、イベントを主催している会社。中野社長は、日本酒愛あふれるチャーミングな性格なので、ただの飲兵衛かと思いきや、東大出身の切れ者で、いろいろな酒の名付け親となっている。じつは福島の銘酒「飛露喜(ひろき)」の命名も中野社長だ。

 中野社長がつけた「賀茂金秀」という名前で、有力酒販店を招き、東京で大々的なお披露目会を催したのが15年前のこと。それからコツコツと酒販店との信頼関係を結び、注文を増やしていった。今では年間800石をつくり、半分は県外に出荷している。

 「特別純米13」を飲ませてもらった。金光社長がお酒に弱い友人のためにつくった自信作だ。13度なのに飲み応えがあるのは、加水していない原酒だからだ。すごく味があるのに軽やか。後口はしみ通ってなくなるようなキレ方だ。

 「従来のフレッシュ&ジューシーに、今後はエレガントを加えていきたい」と金光社長は語る。旨い酒をつくるのは当たり前。それを上回る努力が、チャンスを運んでくるのかもしれない。 

 ■江口まゆみ 酔っぱライター。世界中の知られざる地酒を飲み歩き、日本でも日本酒、焼酎、ビール、ワイン、ウイスキーのつくり手を訪ねる旅を続ける。近著は『ビジネスパーソンのための一目おかれる酒選び』(平凡社刊)。