【ぴいぷる】異能の薬学者・生田哲氏「どう生きて、どう死ぬかを考える時代」 専門家らしからぬ“アンチ発言”に驚き

生田哲氏

 「インフルエンザは5日間寝れば治せる」「睡眠障害は昼間体を動かせば解消できる」「鬱病に依存性の強い抗鬱剤はもってのほか」など薬学分野の専門家らしからぬ“アンチ発言”を繰り返す。

 話題となった『ビタミンCの大量摂取がカゼを防ぎ、がんに効く』(講談社+α新書)、『脳と心を支配する物質』(サイエンス・アイ新書)などの著者で、医療評論家・ジャーナリストの肩書も持つ。

 米イリノイ工科大助教授などを経て、現在、著作や新聞・テレビ、講演活動を通してライフサイエンスとの正しい付き合い方を提言している。

 現代は、医療分野からみるとどういう時代なのだろう。

 「病が細分化され“可視化”されていく時代。例えば鬱病や過労死。以前は性格が弱いから罹患(りかん)するのだ、気持ちを鍛えれば治るなど根性論での対処法がまかり通っていた。でも今、それらは『鬱病』『過労死』という病名がつく病気として認知されています。医療の進歩は新たな病気をつくり出し、それにともない薬剤や治療法の選択肢も増え続けている、そんな時代ですね」

 とりわけがんの治療法は日進月歩。生田さんはアメリカのベンチャー企業の取り組みを紹介する。

 「がん細胞は数時間にわたり摂氏41度の高熱にさらせば死滅することが分かっている。そこで患者を人工的にデング熱に罹患させ高熱を出させることでがんを治そうとする試みが今、あるベンチャー企業で進んでいるのです」

 体温が42度に上がれば脳死などを引き起こしかねず、41度のコントロールは極めて困難な治療法だ。またアメリカの大手製薬企業では、がんの高価な新薬も開発されようとしている。だが、これらから得られるのは2~3カ月の延命。しかも成功率はわずか7%と低いという。

 「なら何もしないでおいしいものでも食べて死んでいく方がいいと笑うのは簡単です。でも大枚はたいてもその治療法を選ぶ人も現実にはいます。治療の選択肢が増えた分、死生観も変化する。だれもがどう生き、どう死ぬかを考えなければならなくなったし、若いときは延命治療を拒否していても死の間際、どんでん返しがあるかもしれない。年齢、家庭環境、子育て時期との関連などと照らせば、僕はそれもありだと思います」

 がん治療最前線は依然熾烈である。

 「がん細胞は嫌気性呼吸、つまり乳酸をつくる発酵によって生きることが分かっている。それを支えるのはDNA(遺伝子の本体)ではなく、エネルギーの生産工場に過ぎないと思われていたミトコンドリア。どうやらミトコンドリアの異常ががんを誘発するという考え方が広まりつつあります。ここにもがん治療の選択肢の新たな萌芽(ほうが)があり、僕らはいずれまたどの治療法を選ぶのかを問われることになるでしょう」

 今、ストレスの問題も深刻だ。生田さんによると、ストレスには2タイプあるとのこと。

 「免疫力と能力を高め、ある種、体にはいい短期(急性)ストレスと、それが反復し長引くことで副腎からストレス物質のコルチゾールが排出されっぱなしになる慢性ストレス。慢性ストレスが病気を引き起こすのです。だから急性を慢性へ変化させない工夫が必要です」

 その方法とは-。

 「ストレスのフラグメント(分断)化。慢性ストレスを複数のブロックに分けることで、複数の短期ストレスをつくるのです。そのためにはオン、オフをクリアにして、休日を設けること。旅行など非日常をうまく取り入れ、リフレッシュしてもいいと思います」

 そもそも効率が上がるのは、仕事や作業の始めと終わりの時間帯。中だるみという言葉もあるように、中間の時間帯は集中力などが低下する。そこで体にいい短期ストレスを意図的に複数作ることで複数の仕事始めと終わりを生み出し、効率を上げるというのだ。

 それから、と続ける。

 「あなたが今、睡眠誘導剤などを服用しているなら数カ月を目標に少しずつ段階的に量を減らしてください。睡眠薬は痴呆や運転障害などの副作用があることは日本ではまだ知られていないが、高齢者の交通事故の背景に僕は薬の副作用を疑っている。重篤な病気を除けば、健康は自分の意志で獲得できるのですから」

 医学、薬学、科学と化学。その最先端は目から鱗のことばかりだ。(ペン・冨安京子 カメラ・寺河内美奈) 

 ■生田哲(いくた・さとし) 薬学博士。1955年8月1日生まれ、62歳。北海道函館市出身。東京薬科大卒。がん・糖尿病・遺伝子研究で知られる米シティー・オブ・ホープ研究所、カリフォルニア大ロサンゼルス校などの博士研究員を経てイリノイ工科大化学科助教授。帰国後は薬学、生化学などライフサイエンス分野で活躍。無料メルマガ「脳と栄養の教室」主宰。3月25日、同教室のセミナー「ストレスに負けない脳を作る栄養素」を都内で開催(有料)。問い合わせはhttps:∥brainnutri.com/で。