【酔っぱライターのお酒見聞録】頂点極めたブレンダ―田中城太さん 世界最高峰のブレンディング

マスターブレンダーの田中城太さんが手がける「富士山麓」

★静岡県「富士山麓」(上)

 キリンビールの担当者から、「うちのマスターブレンダーが、直々に蒸溜所をご案内します」というありがたいお誘いがあり、キリンディスティラリーの富士御殿場蒸溜所(静岡県御殿場市)へ向かった。同社はキリングループの洋酒メーカー。富士山の麓にある蒸溜所からは、快晴なら目の前に迫る大迫力の富士山が見えるはずなのだが、この日はあいにくの雪だった。

 マスターブレンダーの田中城太さんは、長身で口髭をたくわえた温和な方で、どことなく日本人離れした雰囲気を醸し出していた。それもそのはず、1988年の入社後、6年間アメリカでワインの仕事に携わり、いったん帰国してまた渡米。こんどは7年間、バーボンづくりをしていたという。その間、カリフォルニア大学の修士課程を修了している。

 ウイスキーのブレンダーになったのは2009年からで、チーフブレンダーを経てマスターブレンダーとなった。そして昨年、みごとアイコンズ・オブ・ウイスキー(IOW)の世界最優秀ブレンダーに選出された。つまり田中さんは、恐れ多くもブレンダーの頂点を極めた世界的ブレンダーだったのだ。

 キリンディスティラリーのフラッグシップは、「富士山麓」。1本2000円以下という低価格ながら、中身はかなりのハイスペックだ。なにせ05年につくった当初は、ウイスキーが全く売れない時代。そこで有り余る原酒をふんだんに使い、とことんこだわってつくったのだ。しかし国産ウイスキーは高いと売れなかったので、泣く泣く低い価格設定にしたという。

 「今になって後悔していますよ」と田中さんは言うが、価格もスペックも当時のまま。飲むとその旨さに驚き、「この2倍の価格でも良いのでは」と思うはずだ。雑味なくスッキリとした味わいに、花や果実の香りが心地よい。

 このスムーズな飲み口はキリンディスティラリーの真骨頂で、「クリーン&エステリー」と言われている。それはこの蒸溜所の成り立ちに由来する。73年の創業当時、ここは日本のキリンビールとアメリカのJEシーグラム、そしてイギリスのシーバス・ブラザーズの合弁会社、キリン・シーグラムの蒸溜所だったのである。

 ■江口まゆみ 酔っぱライター。世界中の知られざる地酒を飲み歩き、日本でも日本酒、焼酎、ビール、ワイン、ウイスキーのつくり手を訪ねる旅を続ける。近著は『ビジネスパーソンのための一目おかれる酒選び』(平凡社刊)。