【週末、山へ行こう】針葉樹と苔の森の先に「展望の頂」 天狗岳(八ケ岳)

稜線から眺める天狗岳。左が東天狗、右が西天狗(石森孝一撮影)

 美しい針葉樹とコケの森が広がる北八ケ岳。樹林帯を歩いているだけで幸せな気持ちになるこの山域の魅力を、どっぷりと味わおうと思ったときに訪れたいのが天狗(てんぐ)岳だ。東天狗と西天狗、2つのピークを持つ双耳峰で、八ケ岳の稜線(りょうせん)に立つと、ふたこぶらくだのような山容がよく目立つ。

 西側の奥蓼科温泉郷方面から登ることも、東側の稲子湯から登ることもでき、どちらも快適な登山道だ。稜線に出るまではシラビソなどの針葉樹の森。歩いているとふんわりと森の匂いに包まれていく。林床の倒木や岩にはコケがつき、しっとりと美しい。青空と木漏れ日が心地よい晴れの日もよいが、うっすら霧に煙った日も幻想的で、ひょこっと妖精が出てきてもおかしくないなと思う。

 稜線に出ると眺望がよくなり、大きな岩を縫うように進むところが出てくる。山頂直下はなかなかの急登、息を切らせながら登り切ると東天狗の頂上だ。

 登ってきた登山者の期待を裏切らない、360度の大展望。南側を眺めれば硫黄岳、横岳、赤岳…と南八ケ岳の岩峰が連なり、北側にはどっしりした山容の北横岳、お椀を伏せたような形の蓼科山がよく目立つ。遠くに連なる中央アルプスや北アルプスの山々も美しい。東天狗の目の前にそびえるきれいな形の山は西天狗。すぐそばだと思うか、だいぶ遠いと感じるかはそのときの天気や疲れ具合によるだろう。

 健脚なら早朝出発日帰りで楽しめる山だが、ここはやはり山小屋泊まりをお勧めしたい。西側から登ればアットホームなもてなしが嬉しい黒百合ヒュッテ、東側から登れば森の中のメルヘンチックなしらびそ小屋や、ワイルドな露天風呂のある山の秘湯・本沢温泉。どこもみな個性的で、山小屋を目当てに行くのも楽しいと思う。

 ちなみに天狗岳は、山小屋が通年営業していることもあり、冬も多くの登山者が訪れる。私が初めて訪れた雪山が天狗岳で、ガイドさんの雪山登山教室に参加した。雪をまとった針葉樹林はメルヘンそのものだったし、天候に恵まれて山頂からの眺めもすばらしかった。今度はいつ天狗岳に行けるだろうか。

 ■天狗岳おすすめルート 渋の湯→黒百合ヒュッテ→中山峠→東天狗→西天狗→往路を戻る→渋の湯 歩行時間約7時間30分(1泊2日)/難易度★★★(最高難易度★★★★★)

 コースガイド JR中央本線茅野駅からバスで約1時間、渋の湯を起点に、黒百合ヒュッテに宿泊して山頂往復。唐沢鉱泉との分岐から先は大岩がゴロゴロとつらなる登山道。山頂から黒百合ヒュッテへの下りは来た道を戻っても、天狗ノ奥庭方面に下ってもよい。

 ■おすすめシーズン 紅葉の見頃は10月上旬~中旬。夏はさまざまな高山植物も楽しめる。冬は積雪があり、12月~GW頃はアイゼンなど冬山専用の装備が必要。

 ■西野淑子(にしの・としこ) オールラウンドに山を楽しむライター。日本山岳ガイド協会認定登山ガイド。著書に「東京近郊ゆる登山」(実業之日本社)、「山歩きスタートブック」(技術評論社)など。NHK文化センター「東京近郊ゆる登山講座」講師。