記事詳細

【江口まゆみ 酔っぱライターのお酒見聞録】旨味しっかり上品な香り 賀茂泉酒造の純米吟醸酒、今も輝く一世を風靡した銘酒 (1/2ページ)

★広島県「賀茂泉」(下)

 東広島市の西条は、広島の酒づくりの中心地だ。その一角にある賀茂泉(かもいずみ)の蔵を訪ねたのは、昨年末。標高250~300メートルの盆地にある西条の冬は寒く、寒仕込みに最適といわれる。蔵の庭にある枯山水には、うっすらと雪が積もっていた。

 賀茂泉酒造は、大正元年の創業。西条には江戸時代から続いている蔵がある中、後発の部類に入る。酒名は地名の「賀茂」と、所有する山林にある山陽道の名水「茗荷清水」を仕込み水にしたことから、「賀茂泉」と名付けられた。

 この酒が全国的に頭角を現したのは、昭和40年代のこと。前社長の前垣壽三氏が、戦争で失われた純米酒の復活に取り組んだことがきっかけだ。

 このとき世間で飲まれていた日本酒は、酒を調味液で3倍に薄めた三増酒だった。三増酒の全盛期は、戦争で米不足になった1943年に始まり、戦後も続いていた。ところが65(昭和40)年に米の配給制が終わり、戦前のように、米をぜいたくに使う純米酒や吟醸酒がつくれるようになったのだ。

 72年、まだ「純米酒」という言葉がなかったことから、米と米麹だけでできた酒を「無添加清酒」という名前で売り出した。

 ラベルには、印象的な書体で大きく「酒」と書いた。これは、現社長の叔父にあたる、東大寺206世管長・上司海雲の書である。この字は今も代表銘柄「本仕込 賀茂泉」のラベルに使われており、賀茂泉の原点となっている。