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【江口まゆみ 酔っぱライターのお酒見聞録】小作人を思い生まれた日本ワイン 日本の風土に合うブドウを作るべく品種改良

★新潟県岩の原葡萄園(上)

 最近「おいしい」「和食に合う」と人気上昇中の日本ワイン。国産ワインは、原料のブドウが外国産でも、日本で醸造すれば「国産」と名乗れるのだが、それでは日本のブドウ100%のワインが差別化できない。そこで2015年10月に法律が改正され、新たに「日本ワイン」という名称で区別されることになったのだ。

 北陸新幹線の上越妙高駅からタクシーで25分。雪深い丘の上にある岩の原葡萄(ブドウ)園は、原料ブドウ国産100%の「日本ワイン」醸造所だ。契約栽培畑のほか、約6ヘクタールの自家ブドウ園を持つ。

 ここを開いたのは、日本ワインブドウの父と言われる川上善兵衛だ。1890年のことだった。今年はその善兵衛生誕150年の節目である。

 善兵衛は、大地主の家に生まれた川上家6代目当主。小作人を多数抱え、遠く15キロ先の直江津の海岸まで、自分の土地だけを踏んでいけたというほどの資産家だった。

 彼は小作人たちが冬に出稼ぎをしていることに心を痛めていた。なんとか地元に産業を興し、年間通して仕事をさせたい。そんな折、東京に出て、赤坂の御用邸で勝海舟に面会する。そこで葡萄酒というものを初めて飲み、興味を持った。

 調べると、ブドウなら荒れ地でも育つようだ。小作人は、春から夏にかけてブドウを作り、秋から冬にかけて葡萄酒づくりをすることで、1年通して地元にいられる。

 すぐに裏山を開墾し、ブドウ畑を作った。ブドウ畑は南向きの斜面に作られるものだが、岩の原葡萄園の畑は北向きの斜面にある。それは善兵衛が、たまたま開墾した自分の土地が北向きだったからだという。

 畑には、海外から取り寄せた欧米系品種を植え、実際に醸造して根気よく土地に合うブドウを探した。善兵衛は、これを23歳から53歳まで、30年間も続けたのだ。

 その結果、「欧米系品種は日本に合わない」という残念な結論に達する。しかしこれで終わらないのが偉人。今度は、日本の風土に合うブドウを作るべく、品種改良を始めたのだった。

 ■江口まゆみ 酔っぱライター。世界中の知られざる地酒を飲み歩き、日本でも日本酒、焼酎、ビール、ワイン、ウイスキーのつくり手を訪ねる旅を続ける。近著は『ビジネスパーソンのための一目おかれる酒選び』(平凡社刊)。