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【江口まゆみ 酔っぱライターのお酒見聞録】「日本のワインブドウの父」川上善兵衛 ブドウの交雑1万回、極めた甘い香り 新潟県『岩の原葡萄園』 (1/2ページ)

★新潟県「岩の原葡萄園」(下)

 新潟県上越市。冬は深い雪に埋もれるこの地にブドウ園を開き、生涯をかけて日本の土壌に合うブドウを開発した偉人がいる。それが「日本のワインブドウの父」と呼ばれる川上善兵衛だ。

 明治23(1890)年に始まったワイナリー、岩の原葡萄園は川上家に代々伝わる土地で、岩だらけの荒れ地だった。裏山を開墾してブドウ畑を作った善兵衛は、欧米のブドウ苗を取り寄せては栽培し、試験醸造までしてコツコツと調べることなんと30年。その結果、「どうやっても欧米品種は日本の風土に合わない」という残念な結論に到達する。30年間の努力が水の泡である。

 しかし、そんなことでへこたれない善兵衛。今度は品種改良をして、日本に合う新品種を開発しようと意欲を燃やす。もちろんバイオ技術などない時代。メンデルの法則を利用した品種交雑だから、気の遠くなるような手間がかかる。

 代々大地主で、上越きっての資産家の善兵衛だったが、何十年もブドウ研究に没頭するあまり、すべての財産を使い果たしてしまった。そんな時、寿屋(現サントリーホールディングス)の鳥井信治郎と出会う。鳥井は善兵衛の情熱に心を動かされ、資金援助を申し出る。その縁で、岩の原葡萄園は、現在もその傘下にある。

 善兵衛が行ったブドウの交雑は1万311回に及び、ついにその中から日本の土壌に合う優良22品種を選び出すことに成功した。岩の原葡萄園では、現在5品種が栽培されているが、なかでも赤ワイン品種のマスカット・べーリーAは、青森から熊本まで栽培されるほど、全国の土壌に合っている。また、2013年にはOIV(国際ブドウ・ワイン機構)において、国際的に認定された品種でもある。