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【江口まゆみ 酔っぱライターのお酒見聞録】『久保田』が仕込みと販売で新戦略 受注生産に徹する独自のシステム「久保田会」 (1/2ページ)

★新潟県「久保田」(上)

 昨年末、初めて朝日酒造(新潟県長岡市)が主催する「久保田を楽しむ会」に参加した。

 久保田といえば、バブル時代、よくお金持ちのオジサマにごちそうになった酒だ。あらためて飲んでみると、しみじみ旨い。とくに「雪峰(せっぽう)」という山廃の純米大吟醸の旨さがハンパない。冷やでも旨いが、燗にすると一段と味が乗り、花開く。聞けばスノーピークと共同開発した限定酒で、次の発売は今年の7月だという。

 あの久保田が、知らないうちにアイテムを増やしていた…。不勉強を痛感し、すぐに朝日酒造へ赴くと、立派な蔵が一面の雪の中に黒々とそびえていた。

 久保田の発売は1985年。日本酒業界は大手の過当競争と安売り合戦のさなかにあり、地方の地酒蔵の疲弊は激しかった。目の前に、級別制度の廃止も迫っている。そこで朝日酒造は、新潟県の醸造試験場長を招へいし、ワンランク上のブランド開発に乗り出した。

 コードネームで「東京X」と呼ばれたその酒は、都会のホワイトカラーをターゲットにした、淡麗辛口の高級酒。お手本にしたのは、当時地酒ブームの頂点に君臨していた「越乃寒梅」で、それをさらに磨き上げた酒を目指した。

 だが、これまでと全く違う仕込み方で、麹は「突きハゼ」と呼ばれる吟醸麹、もろみも低温で長期間発酵させる吟醸仕込みだった。当然そんな設備はないので、初めは麹室の湿度や温度の管理も難しく、苦労の連続だったという。