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【江口まゆみ 酔っぱライターのお酒見聞録】甕で熟成、感動のヴィンテージ 山梨県のマルスワイン

★山梨県マルスワイン(上) 

 マルスワインをつくっているのは、鹿児島に本社のある本坊酒造だ。日本各地で、ワインの他にウイスキーやクラフトビールも手がける総合酒類メーカーだが、もともとは芋焼酎の会社で、鹿児島で“本坊さん”といえば一大財閥。あの「さつま白波」の薩摩酒造も本坊グループである。

 ワイン事業に乗り出したのは、1960年。場所は西に南アルプス、南に富士山を望む甲府盆地の、山梨県笛吹市石和(いさわ)町。この一帯は、冬は寒く夏は暑く、そして雨が少なく日照時間が長いという、ブドウの栽培に最適な環境だったからだ。

 石和と言えば温泉で有名だが、源泉が湧き出たのは61年なので、温泉街よりマルスワインの歴史の方が長い。マルス山梨ワイナリーができた当初は周囲に何もなく、ブドウ畑だけが広がっていたそうだ。だが今では立派な観光地になったため、年間13万人もの観光客が訪れる。

 工場長の田澤長己(おさみ)さんは地元出身で、山梨大学でワイン醸造を学んだ後、本坊酒造に入社してからマルスワイン一筋30年以上。今回マルス山梨ワイナリーと、昨年完成したばかりのマルス穂坂ワイナリーを案内してもらった。

 山梨ワイナリーの地下は、空調で16度に保たれている。これは温泉地のため地熱が高く、自然の状態だと25度以上になってしまうからだ。

 300本のオーク樽の奥から現れたのは、なんと素焼きの甕(かめ)。焼酎蔵で見かけることはあるがワイナリーでは初めて見る。甕は気孔があるので熟成が速いそうだ。この中には、ポートワインと同じ製法で、長期熟成ワインにブランデーとスピリッツを加え、甕で熟成させた酒精強化ワインが入っている。

 ヴィニョデマルスというこのワイン、1945年から2000年までのヴィンテージがあり、記念品や贈り物としてインターネットで購入できる。特別に1965年ものを飲ませてもらうと、これが驚愕! 甘口なのにスッキリとしており、カカオのような独特の余韻に一口でとりこになった。

 ■江口まゆみ 酔っぱライター。世界中の知られざる地酒を飲み歩き、日本でも日本酒、焼酎、ビール、ワイン、ウイスキーのつくり手を訪ねる旅を続ける。近著は『ビジネスパーソンのための一目おかれる酒選び』(平凡社刊)。

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