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【江口まゆみ 酔っぱライターのお酒見聞録】日本産に特化した穂坂ワイナリー 山梨県・マルスワイン

★山梨県マルスワイン(下)

 マルスワインは、鹿児島の焼酎メーカー本坊酒造のワインだ。温泉地として有名な山梨県笛吹市石和町に、山梨ワイナリーを開いたのは1960年のことである。

 山梨ワイナリーの地下には、焼酎を熟成させる甕(かめ)が並んでいて、中にはポートワインと同じ製法の酒精強化ワインが入っている。1945年から2000年までのヴィンテージがあり、古いものはカカオのような独特の余韻が素晴らしい逸品だ。

 この山梨ワイナリーから車で約40分の韮崎市穂坂町に昨年、「穂坂ワイナリー」が誕生した。穂坂には2000年から自社畑がある。この地域は日照が長く、朝晩の気温差が大きい。標高500~600メートルの南東向きの斜面に植えられた赤ワイン品種は、皮が厚く酸もしっかりとしていて力強いワインになる。特に評価が高いのが、マスカットベーリーAだ。

 これまでは収穫したブドウを山梨ワイナリーまで運んで仕込んでいたが、やはりブドウの劣化は免れない。そこで自社畑の近くに日本ワインに特化した工場を建てたのだ。ちなみに日本ワインとは、日本産のブドウのみでつくられたワインのことである。

 工場は傾斜を生かした半地下構造になっており、ポンプで汲み上げなくても原料を下へと移動できるグラヴィティ・システムを取り入れている。これにより、ブドウに余計なストレスがかからない。また、主なタンク容量は4000~7000リットルと小さく、産地別や畑別に仕込むことが可能だ。

 工場の隣には、おしゃれなワインバーとワインショップがあり、女性ソムリエの説明を聞きながら試飲できる。さっそくマスカットベーリーAを飲んでみた。ブドウを4度まで冷やして1週間漬け込むコールド・マセレーションで仕込んだものは、イチゴのような甘い香りに、サラサラのタンニンが心地よい。一方、樽熟成したものは、なめし革のような香りがあり力強い。同じ品種でもこれほど違うとは恐れ入った。穂坂でのマルスワイン第二章に目が離せない。

 ■江口まゆみ 酔っぱライター。世界中の知られざる地酒を飲み歩き、日本でも日本酒、焼酎、ビール、ワイン、ウイスキーのつくり手を訪ねる旅を続ける。近著は『ビジネスパーソンのための一目おかれる酒選び』(平凡社刊)。