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【江口まゆみ 酔っぱライターのお酒見聞録】量より質、本物の酒を丁寧に 宮城県「浦霞」

★宮城県浦霞(上)

 「浦霞(うらかすみ)」といえば、「地酒の雄」という言葉が浮かぶ。全国新酒鑑評会で、金賞受賞のトップ蔵として名を馳せ、日本全国いつどこで飲んでも安定して旨い。居酒屋で浦霞を頼んでおけば、まず間違いないという安心感抜群の酒だ。

 浦霞の本社蔵(株式会社佐浦)は、仙台から仙石線で30分の本塩釜(宮城県塩釜市)にある。蔵の裏手に鎮座するのは、江戸時代より御神酒をつくり納めてきた塩竈(しおがま)神社だ。塩釜はまた、三陸沖の豊富な海産物を背景とした「寿司のまち」でもあり、1平方キロあたりの寿司屋店舗数が日本一といわれている。

 浦霞も塩竃の食文化とは切っても切れない関係にあり、魚介類に合う辛口で、寿司などの食中酒として、食事を邪魔せず引き立てる淡麗さが身上だ。目指すのは「品格のある酒」。ほどよい米の旨みがあり、味と香りの調和のとれた、まろやかで上品な味わいだ。これを見事に表現した酒が、フラッグシップでもある「浦霞 禅」だと思う。

 この酒は、禅宗の僧侶が「フランスで禅が流行っていて、近々布教に行く」と話したのを聞き、一代前の当主・佐浦茂雄氏が「面白い。禅という酒をつくってフランスで売ろう」と考え、商品化した酒である。結局フランスへの輸出はかなわなかったが、「酒好きが一度飲んだら気に入ってもらえる酒」として、1973(昭和48)年に発売した。テレビコマーシャルなどは一切せず、口コミだけで看板商品となったそうで、酒自体の実力のほどがうかがえる。

 浦霞はまた、昭和50年代の地酒ブームに乗って、ピーク時には年間生産量1万石を超えたが、決してほかの蔵から原酒を買う「桶買い」を行わず、東松島に「矢本蔵」を新設する道を選んだ。以来、「浦霞 禅」など少量生産のものは本社蔵で、ある程度量産が必要なものは矢本蔵でと生産を分けている。

 「量より質。本物の酒を丁寧につくり、丁寧に売る」という一貫した姿勢は、凜として美しい酒質にも現れている。  

 ■江口まゆみ 酔っぱライター。世界中の知られざる地酒を飲み歩き、国内でも日本酒、焼酎、ビール、ワイン、ウイスキーのつくり手を訪ねる旅を続ける。大人気のラブコメ漫画『酒と恋には酔って然るべき』(秋田書店)の原案を担当。

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