記事詳細

【江口まゆみ 酔っぱライターのお酒見聞録】モダンで素朴「これぞ湘南!」 神奈川県「天青」 (1/2ページ)

★神奈川県「天青」(下)

 湘南唯一の熊澤酒造(神奈川県茅ヶ崎市)は、6代目の熊澤茂吉社長が継いだとき廃業の危機にあった。当時、酒造業界は地ビール元年。熊澤社長は、蔵を再興する新しい酒が出来上がるまで地ビールをつくり、食いつなぐという策に出た。

 折からのブームで、敷地内に作ったブルワリーパブ(ビール醸造所併設パブ)は大盛況。ビールの利益を、日本酒の開発費用に、そっくり充てることができた。

 こうして5年がかりで試作を繰り返し、ようやくできた酒が「天青(てんせい)」だ。中国の故事「雨過天青」にちなみ、雨がひとしきり降ったあとの、突き抜けるような青空を表わしている。目指したのは、米の味わいはじゅうぶんありながら、余韻は爽やかな酒。それはそのまま、湘南の風土や食文化を表現している。

 満を持してリリースした新ブランドだが知名度はなく、地元以外の流通経路もなかったので、すぐに売れたわけではない。それでもあえて営業部は置かず、製造の人間が、地道にコツコツと販売店を増やしていった。その間、ブルワリーパブが下火になると、今度はビール酵母を使ったパンを作り、敷地内に、カフェやイタリアンの店をオープンするなどしてしのいだ。その甲斐あって、発売当初たった5軒の特約店は、今や全国50軒に拡大。酒に力がなかったら、口コミだけでここまで増えることはない。

関連ニュース