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【パリッコの「酒飲み12カ月」】グツグツ、はふはふ… 「アルミ鍋」の季節がやってきた

 10月に入り、スーパーの店頭で急激にやつらが勢力を増しだした。「アルミ鍋うどん」だ。天ぷらうどん、鍋焼きうどん、すき焼き風うどん、カレーうどん、などなど。

 僕はあれが妙に好きで、そんなに頻繁にでもないけれど、秋冬に無性にたべたくなることがある。寒い朝にはふはふ言いながら食べる、玉子をひとつ落としたアルミ鍋うどんは至高だし、晩酌のときに具を足して簡易鍋にすることもある。たまの贅沢で、牡蠣をひとパックぶんドサ入れしてしまうこともあるが、贅沢といったってトータルで500円もかからないんだから素晴らしいの一言だ。

 それとは別に、各種の具材がセットになった、鍋セットみたいなものもよく売られている。これには、スーパーが独自に具材をアルミ鍋に詰め込み、パッケージングしてあるようなものも多い。先日、いつものスーパーで、その手のタイプの「中華麺入り豚キムチ鍋」398円が、半額の199円になっているのを見つけ、反射的にカゴに放り込んだ。帰り道に考える。これをどうやって食べよう? その日の夜は、妻が家族のぶんの夕飯を用意してくれるはずだ。となると明日。タイミングは昼か。そうだ、秋の入り口の最高に気持ちのいい空気を存分に堪能しつつ食べるのはどうだろう? つまり、「ベランダひとり鍋」。うん、最高。

 翌日、14時くらいに原稿の仕事がひと段落した。そそくさと鍋の準備にとりかかる、前に、コンビニへビールを買いにいく。ひとり鍋でソフトドリンクというわけには、そりゃあいかない。なに、缶ビール1本くらい、小一時間も昼寝すればまた仕事に戻れるだろう。

 あらためて準備。といっても、ベランダのテーブルにイワタニの小型バーナーを置いて、買ってきた鍋をセットすれば完了。取り皿もコップも小賢しい。直でいく。

 さすがの高火力で、火にかけて5分ほどで鍋はグツグツだ。アウトドア用の折りたたみチェアの座面の低さと、バーナーで底上げされた鍋の高さで、かなり食べにくいけれど、それもまた味。鍋のフチに慎重に唇を近づけ、とはいえ決して接地することのないよう慎重に、まずはいちばん火の通りの早い白菜の薄いところを食べる。ははは。おー熱い。白菜からジュワッと、韓国唐辛子系の旨味が染み出してくる。ちょっとインスタントラーメンを思わせるようなジャンクなキムチ味が、ビールを誘う。

 ビール、厳密には発泡酒をごくり。っくぅ。ニラを数本薄切りの豚バラ肉に包んでもぐもぐ。やっぱり一番好きだな、豚バラ。ビールごくり。白菜の厚いところ、長時間シャキシャキを保ったままなのが頼もしいな。ふたつだけ入ったつくねのふんわりとした優しさもいい。

 7割くらい夢中で食べ進め、やっと一息つく。空を見上げると、ダイナミックな雲の隙間から青空が覗いていて、なんだか雄大な気持ちになってくる。日常の中にも、工夫次第でこんな良い時間が作れるんだな。またやろうっと。ベランダ鍋。

 さて仕上げだ。具をさらった鍋に中華麺を入れる。生卵も落とす。再び火を強めてグツグツグツ。あっという間に「キムチチゲラーメン」の完成だ。これをひっくり返したら大惨事なので、さすがに火からおろし、無心ですする。各種食材から出た旨味が、まったりとコク深い極上のスープとなっており、「もし自分がラーメン屋を開くとしたら、間違いなく『鍋のシメ再現製法』を取り入れるな」と、強く心に誓う。中盤で半熟玉子の黄身を崩し、麺に絡めながら。トゥルンとした白身も大好き。無心ですすっていたら、もはや汗ばんでくるほど体が温まってきた。あとで後悔するとは思いつつ、最後の一滴までスープを飲み干して、残りのビールも飲み干す。

 トータルで300円そこそこにしては、満足度の高い一食だったな。と、風呂上がりのような気分でしばしボーッと過ごす、秋の午後だった。

■パリッコ 酒場ライター。著書に『酒場っ子』『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』、スズキナオ氏との共著に『酒の穴』『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』。「晩酌ほろ酔いクッキング」(漫画ゴラク)「今日は早退します!」(東京ウォーカー)他、連載も多数。TV東京「音流~ONRYU~ 酒場サーキット」出演中。

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