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【松浦達也 肉道場入門!】濃厚な味わいのブッラータチーズが口内に流れ込む…うますぎる「愛農ハムのブルスケッタ」

★絶品必食編

 食べ物の原稿を書こうというとき、まずいのは困るが、旨すぎても困る。言葉が追いつかないからだ。同様に物語がないのも困るが、ありすぎてもまた困る。紙幅には限りがあるからだ。

 東京・駒沢にある一軒家イタリアン「イルジョット」の前菜のスペシャリテ、「愛農ハムのブルスケッタ」は味も物語も圧倒的に後者である。

 炭火で炙ったバゲットの上には、極薄に切りたての自家製「愛農ハム」が花びらのように折りたたまれている。

 佇まいははかなげだが、決して容赦してはならない。

 バゲットを素手でつかみ、中央めがけて大口を開けて「ザクッ!」という音とともに、半分ほどを頬張る。

 すると中から乳の香りと濃厚な味わいのブッラータチーズが口内に流れ込んでくる。

 そんな仕掛けに驚きと喜びが同時に噴出する。その瞬間、鼻腔へと山わさびのツンとした香りが駆け抜ける。口のなかでは噛むほどに愛農ハムの旨味が広がっていく。

 炭火で焼いた香ばしい小麦の風味にハムの旨味、そしてブッラータのコク、山わさびの香りが“四味一体”となって、口の中で爆(は)ぜるのだ。

 自家製の愛農ハムは一般の流通にはほとんど出回らない希少な愛農ナチュラルポーク。そのロースをスパイス&ハーブを効かせた漬け込み液に1週間漬け、そのまま火にかける。68度で数時間火にかけ、その後2日間かけて味をなじませる。

 「生クリームを抱いたモッツァレラ」と言われるブッラータチーズはフレッシュな風味と濃厚なコクというアンビバレンツを演出し、そこに北海道の山わさびが清涼感を加える。この店を訪れる誰もが驚き、そして歓喜する一皿だ。

 旨すぎてこの前菜だけでもいいから食べに行きたくなる。だが続く絶品の肉料理も、もちろん食べ逃せない。

 そしてついつい食べては飲み、飲んでは食べてしまう。

 こうして年の瀬の夜は更けていく。そういえば今晩は聖夜である。メリークリスマス。どうぞいい夜を。

 ■松浦達也(まつうら・たつや) 編集者/ライター。レシピから外食まで肉事情に詳しく、専門誌での執筆やテレビなどで活躍。「東京最高のレストラン」(ぴあ刊)審査員。

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