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【BOOK】新春特別インタビュー 天童荒太 あなたに「帰る場所」はありますか? (1/3ページ)

★天童荒太『巡礼の家』(文芸春秋・1700円+税)

 本作を読み解くキーワードは「あなたに帰る場所はありますか」。どこへ行こうとしているのかわからず途方に暮れ、帰るべきホーム(よりどころ)を見失っているとき、人は返答に詰まるだろう。「この本が『答え』を見つける燈火となるのでは」と著者は言う。(文・冨安京子 写真・戸加里真司)

 ■作品が死ぬか自分が死ぬかギリギリの状態で書き続けてきた

 --不慮の死で亡くなった人の魂に寄り添う『悼む人』、体に痛みを感じない男と心に痛みを感じない女の壮絶な性愛を描いた『ペインレス』などから一転、今回は「癒やしとおもてなし」がテーマです

 「どの作品も登場人物になり切ることで彼らの生き方や世界観に入り込み、それができなければ作品が死ぬか自分が死ぬかといったギリギリの状態で書き続けてきました。その頂点に立つのが、前作の『ペインレス』です。執筆中、私はアトピーを発症し体重も激減しました。今作にはそうした重さはなく、一種の明るさと軽やかさを持って書けたなと思います。体重も今、8キロほど戻りました」

 --そこまでさせるものとは

 「物語作家、表現者として文章芸術の理想の形を追い求めているからでしょうか。『ペインレス』で私は、満足のいく自分なりの文章表現を極めることができました。そこで今、そのよろこびと楽しさを読者に還元する時期が来たと思うんです。今作はその第一作となりました」

 --物語の舞台は道後温泉(松山市)にある架空の宿「さぎのや」。ここはお遍路や悩める人が身を寄せ人々の温かさに触れ癒やされ、元気をもらう“疑似ホーム”です

 「私の生家は道後温泉本館から300メートルぐらいしか離れていず、道後には古くは歴代天皇や聖徳太子、近世では正岡子規や夏目漱石などそうそうたる人たちが癒やしの湯を求めて訪れました。またお遍路という“死と祈りの文化”があり、“お接待”と呼ばれる遍路をもてなす地元の人々がいる。湯・人・土地の3拍子がそうした精神性を生み、それが育まれているのは道後だけ。この地に生まれたのは、そのことを書くために選ばれた身かもしれないと思い上がっても良いのではと考えたのです」

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