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【パリッコの「酒飲み12カ月」】敷居はそんなに高くない? 「おせち」を自作してみた!

 今年も無事、新しい年を迎えることができた。

 2019年は自分が勤めていた会社を辞めて独立した年であり、その感慨というか安堵感は、例年よりも大きい。最近特に実感しているのが、フリーランス稼業の波の激しさ。今月は少し余裕があるぞ、なんて思っていると、想定外のお金がどーんと出ていって、これ、あと2週間生き延びられるのか……? みたいな状態がやってくる。そんなとき、奇跡的なタイミングで大きめの仕事の依頼をもらったりして、まさに天の助け。会社勤めで毎月決まった給料が保証されていた頃に比べ、本当に周りの人々に生かしてもらっているなぁと感謝することばかり。なのはいいことなんだけど、日々の生活はまるでジェットコースターだ。

 そんなふうに、特に忙しく過ごしていた年末。気づけば「おせち」の注文に出遅れた。僕は正月三が日の、日本全国昼間っから酒を飲んでいても許されるだらけきった空気感が大好きで、そこにはおせち料理が欠かせない。デパートなども、ハロウィンが終わると一気に年末モードに突入し、クリスマスケーキとおせち、両A面のパンフレットが大量に出回る。それを眺めてあれこれ検討し、お財布と相談し、どれかひとつを注文して、正月に酒のつまみにする。それがここ数年の定番だった。が、はっと気づいたのがもはや12月後半。もうほとんどのおせちは予約完売となってしまっているのだった。

 そんな話を、仕事で会った編集者さんとしていたら、「我が家では毎年、定番のレシピで『田作り』と『なます』を手作りしている。そこにイクラかカズノコでもプラスすれば、もう立派なおせちである」という由の返辞があった。なるほど、そんなふうに気楽に考えれば、おせち料理の敷居はぐんと下がる。よし、今年は自作でいこう! 家族に提案し、了承を得る。

 12月30および31日の空き時間を使って、おせち作りを進めていく。まずはその編集さんにレシピを教えてもらった「田作り」と「なます」から。

 この田作りに感動した。大雑把にいうと、「食べる煮干し」とクルミを、酒、みりん、砂糖、醤油、1:1:1:1/2で煮からめるだけ。5分でできる。味見してみると、「田作りってこんなにうまいものだったのか!」と、これまでの人生においてほぼ興味0だった評価が、180度変わってしまった。キッチンでのつまみ食いが止まらない。こりゃあ酒だ。と、思わず缶チューハイまで開けだす始末。

 それから「なます」。これは、ちょっと変わったベトナム風で、正式には「ニャクチャム」という料理らしい。細切りにしたダイコンとニンジンに塩をしてしばらく置き、水気を切り、ナンプラー、酢、砂糖、水を煮詰めて粗熱を取り、長ネギ、ニンニク、ショウガのみじん切りと、コチュジャンともに漬けこみ……とちょっと普段自分が作る料理からすると工程が多かったけど、これまた酒のつまみとしては抜群の味わいだった。

 他、とにかく家にあった二段のお重を埋めるという方向性のもと、市販の既製品を大いに活用し、2020年の我が家のおせちは完成した。

【一の重】百合根の梅肉和え、田作り、カズノコ入り松前漬けイクラ乗せ(市販品)、なます(ニャクチャム)【二の重】ゆでエビ、牛スジ煮込み、合鴨のロースト(市販品)、イクラ(市販品)、カマボコ(市販品)、黒豆(市販品)、ローストビーフ ※どちらも写真左上から 【一の重】百合根の梅肉和え、田作り、カズノコ入り松前漬けイクラ乗せ(市販品)、なます(ニャクチャム)【二の重】ゆでエビ、牛スジ煮込み、合鴨のロースト(市販品)、イクラ(市販品)、カマボコ(市販品)、黒豆(市販品)、ローストビーフ ※どちらも写真左上から

 田作りとなます以外を簡単に解説すると、「ユリ根の梅肉和え」は、好きで以前からよく作っているもので、ユリ根をさっとゆでて梅肉とカツオ節を和えるだけのオリジナルレシピ。ホクホクと甘いユリ根と梅の酸味がよく合う。とはいえ、正月以外に作ることはないが。「ゆでエビ」は、普段買うよりはちょっといいエビを塩ゆでしただけ。「牛スジ煮込み」は、ちょうど家で作っていたものを、スペースが空いたので詰めただけ。イクラは買ってきて、くりぬいたユズに詰めただけ。「ローストビーフ」は普段からよく作るんだけど、これまた肉を奮発したらとろける柔らかさだった。

 トータルでかかった金額は、およそ5000円といったところだろうか。重箱に収まりきらないぶんの料理はタッパーに保存し、その後もちょこちょことつまんでいたことを考えると、なかなかお得な気がする。

 おせち料理には、一品一品に意味があるらしいことは知っているし、きっと押さえてなければいけないポイントというのも、正式にはあるのだろう。けど、そんなことを考えている余裕は今年はなかったし、自分と家族が食べるだけのもの。できる範囲のことを、好きなようにやればいいや、と開き直ったら、手間も大したことはないし、何より楽しかった。

 元旦に実家に持っていき、ひとり暮らしの母も交えて食べたんだけど、お世辞もあるだろうが、幸いみな「きれいだ」「うまい」などと言ってくれた。市販品と比べれば不恰好だけど、こんなおせちもまぁ、たまにはいいな。なんて思えた、2020年の正月だった。

■パリッコ 酒場ライター。著書に『酒場っ子』『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』、スズキナオ氏との共著に『酒の穴』『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』。「晩酌ほろ酔いクッキング」(漫画ゴラク)「今日は早退します!」(東京ウォーカー)他、連載も多数。TV東京「音流~ONRYU~ 酒場サーキット」出演中。

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