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【パリッコの「酒飲み12カ月」】不要不急の外出自粛。おこもり花見、雪見酒 (2/2ページ)

■3月29日日曜日

5:30。自然と目が覚め、しばし外の音に聞き耳を立てる。雪の日特有の、シンとして、人や車が通るとギュッギュッと雪を踏む音が静かに鳴る、あの感じがまるでない。カーテンを開けると案の定、ただシトシト雨が振っているだけだった。残念。家族が起きてくるまでしばし仕事する。

9:00。居間に移動してカーテンを開けると、なんと一面の雪景色! これには驚いた。嬉しくなって、起きてきた娘に外を見せてやると、「雪で遊びたい!」と無邪気にはしゃいでいる。この時ばかりは心が痛んだ。娘はまだ3歳手前。こんな滅多にない日に、外に連れだしてやれない理由を説明できないもどかしさ。

 散歩に出ることすらも叶わぬ、というか、しないと決めた休日の2日目だ。しかも雪。正月気分ででもいないとやってられない。もはや朝から飲んでしまうことにした。というのも、金曜の夜にスーパーへ寄った際、悩んだ末に買ってしまった、神戸淡路屋の駅弁「ひっぱりだこ飯 ハローキティ版」が冷蔵庫にあり、それを妻とシェアして朝食にしようと思ったからで(ちなみに賞味期限が前夜だったので一応チンした。本当は弁当はチンしたくない)、駅弁を酒なしで食べるなんてことは考えられない。

 僕は、このひっぱりだこ飯の“器ファン”で、特に晩酌で好んで作るつまみのひとつ「納豆にあれこれ冷蔵庫にあるものを刻んで混ぜたやつ」を作るときに愛用している。というのも、その大きさと形状から、どんなに元気にかき回しても中身が飛び出ることがないのだ。なので、イベントごとで限定カラーの器を見かければ買いたくなってしまい、家にはすでに「ノーマル」「蓋つき」「金」「銀」「ゴジラ対ひっぱりだこ飯」の5つの器がある。

 これが、割とでかい上に効率的に重ねてしまっておくこともできず、ものすごく場所をとるので、本当は「もう買わないようにしよう」と心に決めていた。なのに、こんな週末に駅前のイトーヨーカドーが駅弁フェアをやっており、限定のキティちゃんカラーが、しかも割引されて売られていたのを見て、つい買ってしまった。そうそう捨てられないんだよな、ファン心理的に。今後、器が緑色の「伊右衛門版ひっぱりだこ飯」だけは、見つけても買わないようにしよう。いや、実際そのときがきたらわからないんだけど……。

 器の話が長くなったが、朝はこれをつまみにカップ酒を飲んだ。

12:00。室内で遊んでいる家族をよそに、ひとりベランダで雪見酒をすることにした。何度も部屋に取りに戻らなくていいよう、真空断熱水筒に焼酎のお湯割りを作り、地元の酒屋でうまいと教わった、山椒をたっぷり効かせたサンマの缶詰「大人の蒲焼」を持って外に出る。耐熱グラスで飲むお湯割りがじんわり優しく体に染み込む。缶詰も確かにいいつまみになる。

 缶詰がなくなったころ、妻が室内から顔を出し、塩せんべいの「ぱりんこ」2枚入り2袋を差し入れてくれ、もはやこれ以上に望むことは何もない。予想もしていなかったけど、まさか雪見ベランダチェアリングができるとは、なかなか風流なことになったな。

 昨日眺めていた桜に、今日は雪が積もっている。しみじみそれを見ていたらいてもたってもいられなくなり、一瞬だけ外出自粛の掟を解いて、木の下まで行って写真を撮ってきた。

 次に心おきなくこんな風景を見られるのは、何年後になるんだろう。

17:00。早めの晩酌をスタート。今夜は割引だったので買っておいた海老があることと、好きな「よもぎうどん」のストックがあることから、冷たいうどんと天ぷらにすることに。揚げ担当は自分で、キッチンで美味しいところを味見しながら飲める最高のポジション。海老、鶏、チクワ、ニンジン、かき揚げなどを次々揚げつつ、のんきに飲んだ。あとは前日にほぼ同じ。

 これまで生きてきて想像さえもしたことのなかった理由により、外出自粛を余儀なくされた週末。だけど、花見酒も雪見酒もできたし、やっぱりまだまだ、生活の中にささやかな楽しみを見つけることくらいはできるということも実感できた。そして、それはいつまでも続いてほしいし、さらには、早いとこもっと自由に季節感くらいは味わえる生活が戻ってきてほしいと、今、切に願う。

 っていうか、そうじゃないとこの連載、書くことなくなっちゃうよ!

■パリッコ 酒場ライター。著書に『酒場っ子』『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』、スズキナオ氏との共著に『酒の穴』『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』。「晩酌ほろ酔いクッキング」(漫画ゴラク)「今日は早退します!」(東京ウォーカー)他、連載も多数。TV東京「音流~ONRYU~ 酒場サーキット」出演中。