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【江口まゆみ 酔っぱライターのお酒見聞録】発展させた老舗蔵を飛び出し「泡」で勝負 福島県「人気一」 (1/2ページ)

 人気酒造(福島県二本松市)の遊佐勇人社長に初めて会ったのは、私が日本酒の取材を始めた20年ほど前。当時は二本松の老舗蔵・奥の松酒造の19代目蔵元だった。親から受け継いだ蔵を立派に発展させ、売り上げも1・5倍に伸ばしたと聞いていたが、13年前、兄に家業を譲り、突然別の会社の社長になった。そこでつくり始めた酒が人気一(にんきいち)だ。

 その理由についてはほとんど語らないが、才気走ったところがあり、経営センスも抜きん出ていた彼が、先祖代々のブランドではなく、自分の蔵と酒を一からつくってみたいと考えたことは、想像に難くない。だから、経営難の蔵を譲り受けたものの、使っているのは酒造免許だけ。銘柄も酒質も、遊佐社長の発案だ。3年後には大赤字だった会社を建て直し、黒字に転換することもできた。そして、いざこれからという絶妙のタイミングで襲われたのが、東日本大震災だった。古い土蔵の酒蔵は倒壊。現在は全く検出されていないが、当時は放射能の危険にもさらされた。

 このピンチをチャンスと捉え、建て替えではなく移転という決断をしたところが遊佐社長らしい。いくつもの候補地の中から選んだのは、かつて一部上場企業が潤沢な資金で建てた、立派な建物つきの物件。土地は強固な岩盤の上なので地震に強い。鉄筋コンクリートの建物は密閉性が高く、放射能に強い。今後20~30年使える酒蔵だ。

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