記事詳細

【新書のきゅうしょ】「語られない人々」に焦点をあてる 阿部謹也・網野善彦・石井進・樺山紘一著「中世の風景」上下巻(中公新書、1981年) (1/2ページ)

 1970年代後半から80年代前半、読書界で中世史ブームがあった。西洋史で阿部謹也の『中世を旅する人びと』、日本史で網野善彦の『無縁・公界・楽』などが話題を呼んだ。支配者や武士の目から見た政治・経済を描くのではなく、農民・漁民や市井の職人、非定住民など今まで語られなかった存在に焦点を当てる社会史的な著作の出現は新鮮だった。本書は、その頃、盛り上がった「中世」を研究する学者4人の討議スタイルの書である。

 「海・山・川」と題された章で石井は、北越後地方に伝わる貴種流離譚を紹介する。その地域の川の流域にはワタリと呼ばれ、船を操り交易や物資の運搬に従事して遠隔地と商取引を行った人々がいたと語る。ここで私がしごく懐かしい気分になるのは、幼少時「少年マガジン」で愛読した白土三平の漫画「ワタリ」を思い出すから。髪が斜めに流れる少年忍者の活躍に惹かれた。同時期に彼が別雑誌で連載した「サスケ」の方だったかもしれないが、ストーリー中で使われる忍術の仕掛けを絵解きで明かす解説図にも胸を躍らせた。

 また、網野は「職人」の章で、日本の職人には、ヨーロッパと異なり女性が多かったと触れ、「傀儡などは女性が中心」だったと話す。人形を使う芸人の意である「傀儡」は、やはり小さい頃、毎週見ていたテレビドラマ「隠密剣士」の『傀儡忍法帖』などで馴染んだ言葉。そう考えると70年代以降の中世史・社会史の盛り上がりと、60年代に幼年期を過ごした私の世代は相性がよかった。

関連ニュース