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【BOOK】社会のタブーにも斬り込み、時代という悪を問いかける 呉勝浩さん『おれたちの歌をうたえ』 (1/3ページ)

 殺人衝動を抑えられない少年や、銃乱射の大量殺人など、規格外の「悪」を描いてきた呉勝浩さんの新境地というべきか。今作が問いかけるのは人よりも「時代」だ。ままならない人生、理不尽な世の中、社会のタブー…作者の想いを重ねて斬り込んでゆく(文・梓勇生)

 ■“生きている人間”のニュアンス強く出す

 --モンスターのような「悪」が登場する過去の作品とテイストが違う

 「今回の『悪』は人というよりも『時代』ですね。そこには、個人では手が届かない大自然の脅威や、大きな意味での理不尽な存在があり、それを『巨人』になぞらえてみた。架空の土地を舞台にして虚構性の高い物語を書いてきた今までの作品とは違い、“生きている人間”のニュアンスを強く出してみたいと思ったのです」

 --あさま山荘事件(1972年)などが起きた長野県が舞台。学生運動が今作の重要なピースとなっている

 「(全共闘世代を描いて直木賞を受賞した)藤原伊織さんの『テロリストのパラソル』は、僕が中学生のとき初めて自分の小遣いで買った単行本。すごく好きな作品で、自分なりの『テロリスト…』を書いてみたい、と思ったのがきっかけでした。そうなれば、どうしても、その時代観を取り込む、絡めてゆくことになります」

 --作者自身の人生と重ねた部分もある

 「もしも僕がその時代に生まれていたら、学生運動に身を投じていたと思いますよ。逆に言えば、社会を変えるような“大きな物語”を持っていない自分に対して、不全感や乗り遅れた観がどうしても拭えない。藤原さんの『テロリスト-』は学生運動に挫折した物語ですが、その挫折にすら憧れを感じました。『テロリスト-』の発刊は阪神大震災やオウム事件と同じ1995年です。僕はまったく平和な田舎(青森)でテレビを眺めているだけでしたから」

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