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【BOOK】『被災地』や『フクシマ』で括られて、見えなくなった個人を救い出すのが小説家の役割 柳美里さん『JR上野駅公園口』 (1/3ページ)

 世界中が注目する文学賞の一つ、全米図書賞(翻訳文学部門)を受賞した柳美里さん。晴れの受賞作の文庫版が昨年暮れに重版されると、さらに版に版を重ねて43万部で依然ランキング入りしている。東日本大震災から10年、そしていま福島・南相馬市でブックカフェを営む柳さんに聞いた。 文・竹縄昌/写真・酒巻俊介

 --あらためて受賞おめでとうございます。振り返っていかがですか

 「ありがとうございます。(10月6日・日本時間)にショートリスト(最終候補者)に残っていたんです。そしたら、福島の地元紙はもとより全国紙にもファイナリストに残っていると報じられて、周囲から期待の声が聞こえてきたんです。ロングリスト(1次候補者)に入っただけでもすごいと素直に喜んでいたんですが、発表が近づくにつれ、落選したら地元の皆さんががっかりするだろうな、と思ったらだんだん気持ちが塞いで具合が悪くなってしまっていました」

 --発表が11月19日(日本時間)で、翌月に文庫版が重版されますが、たちまちベストセラーでいまも勢いが止まりません

 「思いもよりませんでした。恋愛的要素やミステリー的要素もなく、私が書いた中で最も純文学的な小説がなぜ43万部も売れているのかとてもびっくりしています」

 --版元や出版業界全体が驚いているそうです。“ヒット”の理由を推し量ると

 「(本作が)自分の物語だと感じた方が多いということだと思います。Twitterでも“読み終わったら父のお墓の前に立っていた”という方やいまは帰るべき家を失くし、東京でタクシー運転手をやっているという九州出身の高齢者、父親が東北からの集団就職組という都内で生まれ育った女性、同級生が出稼ぎに出たまま長く行方不明だったがホームレスとして亡くなったという福島県内の男性や、さまざまです」

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