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【BOOK】『被災地』や『フクシマ』で括られて、見えなくなった個人を救い出すのが小説家の役割 柳美里さん『JR上野駅公園口』 (3/3ページ)

 --それが山手線シリーズの原点でしょうか。8作になるのですね

 「本作が5作目で、あと3作です。それぞれ違う主人公で、8作読めば、日本社会の見晴らしとして、山手線という閉ざされた輪に中心があって、周縁があって、そこから弾き飛ばされてしまう人たちがいるということが、わかると思うのです。それは、やはり、ひとり一人の人生をたどる形でしか伝えられないと思っています」

 ■『JR上野駅公園口』河出書房新社・河出文庫600円+税

 東京・上野公園のホームレスの男の一人語り。男は昭和8年(1933年、福島県相馬郡(現・南相馬市)出身。出稼ぎで上野駅に降り立ったのは昭和38年の暮れで、翌年開催の東京五輪の会場の工事に携わたる。結婚して一男一女をもうけるが、浩宮さま(当時)と同じ日に生まれた長男は21歳で早逝。自らは皇太子殿下(当時)と同じ年生まれ。やがて妻が急逝し、悲しみによって故郷から引き剥がされてホームレスとなった。公園を歩く人々の会話が幻聴のように描かれ、ラストシーンで、男の想念は3・11の時間の濁流にそれらすべてが押し流される。

 18年前の短篇「山手線内回り」に始まった“山手線シリーズ”の第5作。同シリーズは『JR五反田駅西口』などに続き、番外として『JR常磐線夜ノ森駅』を加えた8作から成る。

 ■柳美里(ゆう・みり) 1968年茨城県土浦市生まれ。横浜市出身。高校中退後、東由多加率いる「東京キッドブラザース」に俳優として入団。87年演劇ユニット「青春五月党」を結成。93年「魚の祭」で、第37回岸田國士戯曲賞を受賞。94年文芸誌「新潮」に発表した『石に泳ぐ魚』で小説家としてデビュー。96年『フルハウス』で第18回野間文芸新人賞、第24回泉鏡花賞を受賞。97年『家族シネマ』で第116回芥川賞受賞。2020年、『JR上野駅公園口』(14年)が全米図書賞(翻訳文学部門)受賞。翻訳は早大大学院に留学経験もあるモーガン・ジャイルズさん。受賞後同作はベストセラーに。15年には鎌倉市から福島県南相馬市に転居。18年、当地でブックカフェ「フルハウス」を開業した。

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