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【ぶらり、ぶんがく。本と歩く】川端康成ら文豪3人が巡礼 境内の石碑に記念句 田山花袋『田舎教師』埼玉県羽生市・建福寺 (1/2ページ)

 〈六月一日、今日成願寺に移る。こう日記にかれは書いた〉

 田山花袋(1872~1930年)の小説『田舎教師』は、実在した小林秀三という人(作中では林清三)がつづった日記をもとに書かれた作品だ。彼は文学者として身を立てることを願ったが、家が貧しかったのであきらめて小学校の代用教員になり、結核を病んで21歳の若さで亡くなった。

 秀三が下宿していた寺の住職が、詩人でもあった太田玉茗だった。花袋は義兄の玉茗から彼のことを聞き、書き残したものを読んで小説を書いたという。「自然主義文学の代表作」と評される作品には、田舎町の風物や生活が緻密に描写され、道を塞がれた文学青年の切ない心情が浮かび上がる。

 〈かれは今の境遇を考えて、理想が現実に触れて次第に崩れて行く一種のさびしさと侘しさとを痛切に感じた〉

 主人公は、思い通りにいかない現実に悶々として、貧乏なのに商売女にハマって散財したりする。何でもいいから大きなことをしたい、と野心に振り回される。そのうちに出世欲は薄れ、〈平凡の偉大なるを知る〉などと日記に書くようになるが、病気はどんどん悪化して、人並みの暮らしを楽しむ時間も短かった。小説のモデルとして歴史に名を残すことになったから、一応願いは叶ったということになるのだろうか…。

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