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【ぶらり、ぶんがく。本と歩く】人々が日本中に飛び立つ“道路の起点” 東野圭吾『麒麟の翼』 日本橋の麒麟像 (1/2ページ)

 〈自分たちには翼がある、輝かしい未来に羽ばたいていけると信じていた。でも結局飛べなかった〉

 日本を代表するミステリー作家、東野圭吾(1958年~)の『麒麟の翼』は、加賀恭一郎シリーズのベストセラー。人気キャラの加賀が所轄の日本橋署の刑事として活躍する。

 ナイフで胸を刺された男が死ぬ。日本橋の中程にある麒麟像の台座あたりにもたれかかって。男は青柳というサラリーマンで、すぐに不審人物が浮上する。青柳の財布を持っていた八島という無職青年。だが事故に遭った彼は意識不明で証言が得られない。そのうちに2人の接点が判明するが、離れた場所で襲われた青柳が、わざわざ麒麟像まで歩いてきて事切れたのはなぜか…。

 加賀刑事は、粘り強い捜査で真相を読み解いていく。新たな事実が示されるたび、ストーリーがまったく違って見えてくる。構成の面白さはさすが。事件によって苦境に陥る青柳の家族と八島の婚約者の心情描写も感情を揺さぶる。麒麟像は、前を向いて生きようとする人々に、エールを送る存在として描かれる。

 道路元標がある日本橋は、日本の道路の起点。〈ここから人々が日本中に飛び立っていく。だから麒麟の背中に翼を付けたんだそうです〉。加賀にそう語らせているのは、フィクションではない。

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