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【BOOK】まさに江戸時代は罠、前作『渦』を書き終えた後も捕らわれてしまった 浄瑠璃に命を賭ける、近松半二ら実在の人物が登場 作家・大島真寿美さん『結(ゆい)妹背山婦女庭訓波模様』 (3/3ページ)

 --おきみは手紙とともに硯を徳蔵に渡します。徳蔵の見え隠れする恋心も読みどころの一つ

 「手紙には何が書いてあったか? 私にもわかりません。でも硯を託すということがすでに恋心を超えた、浄瑠璃の灯を託し受け継ぐ者への慈しみというか、深い願いのこもった行為だったのではと思います」

 --浄瑠璃は『渦』を執筆する際に勉強し始めたと。歌舞伎にも造詣が深いです

 「歌舞伎は役者の演技を見ますが、浄瑠璃は物語を観る、人形に心を投影して物語と私たちがダイレクトにつながれるのが面白い。浄瑠璃の人形は3人掛かりで操りますが、ちょっと動いただけであり得ないぐらい細かく豊かな表情を持ち始め、人形が生き始めます。そのただならぬ美しさ、妖しさも浄瑠璃の魅力です」

 ■『結(ゆい)妹背山婦女庭訓波模様』 (文藝春秋・1870円税込)

 江戸時代、大坂道頓堀には浄瑠璃をこよなく愛し優秀な作者を輩出させることで、その文化を後世に遺そうとした人々がいた。造り酒屋「松屋」の跡取り平三郎(絵師としての屋号は耳鳥斎)もその一人。そんな中、竹本座の看板浄瑠璃作者・近松半二とその娘おきみのもとには、浄瑠璃作者を目指し切磋琢磨する男たちが集っていた。後に歌舞伎作者へ転向する娼家のせがれ徳蔵も、最初はおきみを師と仰ぐ浄瑠璃作者で、彼女への秘めた恋心を抱いている。リズム感のある大阪弁のせりふが読後の余韻となる。

 ■大島真寿美(おおしま・ますみ) 1962年、愛知県生まれ。59歳。劇団主宰などを経て、92年『春の手品師』で文學界新人賞を受賞し作家デビュー。2011年『ピエタ』で第9回本屋大賞に。19年『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』で第161回直木賞受賞。本作は20年に第7回高校生直木賞(高校生が選考する文学賞)も受賞。他に映画化された『チョコリエッタ』や『モモコとうさぎ』など著作多数。(初出は「オール讀物」20年3・4月号~21年6月号)

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