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【松重豊】自分をクリアにして“自在”に生きる!

2012.02.01


松重豊【拡大】

 悪役からコミカルな役までこなす名脇役が、連続ドラマの主演に初挑戦している。放送中の「孤独のグルメ」(テレビ東京系、毎週水曜深夜0時43分)。輸入雑貨商の男が商用で訪れた街中の飲食店で“うまいもの”を食べながら、さまざまな思いを巡らす。食事シーンと心理描写が中心の異色のドラマ。原作は「週刊SPA!」で不定期連載中のグルメ漫画だ。

 「主役ではありますが、役と向き合うという点では今までと同じなので、それだけを考えてやっています」

 初主演にもかかわらず、気負いはまったく感じられない。画面の中でも、演技とは思えないほど自然な笑顔で食べている。まるでドキュメンタリーのようだ。

 「登場する料理は、本番で初めて食べるようにしています。だから、食べるシーンはある意味、ドキュメンタリーですね。やり過ぎだと思うほど笑顔のときは、本当においしいときでしょうね」

 「食にこだわりがある」など、役と似ている点は多いという。その中には、意外な共通点も。

 「酒を飲めないという役柄なんですが、実は僕も去年の秋から酒をやめたんです。酒を飲まないからこそ、食事のここにはこだわる、ここは怒りたくなる、ここはうれしいというのが、今の僕には分かりますね」

 酒をやめて、食生活もガラリと変わった。

 「食後のおやつを大事にするようになりました。『今日、スイーツは何を食べようか?』ということに、今は異常に執着しています(笑)。人間というのは、何か制約があると別の喜びを見つけるところがあるみたいですね。酒を飲んでいるときは、『休肝日は楽しみがないなあ』と思っていましたが、いやいや、もっと楽しいことがあった! って感じです」

 酒をやめた理由は、健康のためではなく、「違う世界を見てみたかったから」だという。

 「当たり前だと思っていた酒や喫煙の習慣をやめてみるというのは、意外とこの年齢だからこそいいものなんですよね。これがないと生きていけないと思っていたものを取っ払ったときに、知らなかったことや今までとは違う自分が見えてくるんです」

 好きな言葉は「自在」だと言う。

 「何かにこだわりつつも、それを捨てることもできる人でいたいですね。俳優はどんな役でもやらないといけないし、飲んべえだ、食いしん坊だというレッテルをつけたり外したりできるほうが自由ですしね。僕は役柄を徹底的に調べて深入りをするほうなのですが、その仕事が終わったときはすべてを捨てて、次の役へ向かえるようにしています」

 現在は「運命の人」(TBS系、毎週日曜夜9時)にも出演。新聞社の政治部長という堅い役どころだ。気ままな輸入雑貨商とはまるで違う役柄だが、“自在”だからこそ演じ分けができるのだろう。

 天性の役者のようだが、実は一時期、俳優を辞めていた時期があった。

 「倉庫用などのテントを作る会社の正社員になりました。そこにはプロフェッショナルな人たちがいましたね。彼らは与えられた仕事をこなすだけでなく、自分ならではの技術を持って、さらに良い仕事を見せていくんです。格好いい職人って、いい顔をしているんですよ。その後、(芝居仲間の)勝村(政信)に『もう一度俳優をやれよ』と言われて復帰したのですが、俳優も職人なので、そういうプロフェッショナルになりたいと思うようになりました」

 その思いが今の仕事につながっている。

 「人間観察や、どれだけ傷つき感動したかという経験値が、俳優の幅になるんですよ。でも、この年齢になると、経験がだんだん少なくなる。だからこそ自分で仕掛けていこうと思って、酒をやめたり新たな趣味を始めて、脳みそを揺さぶっているんです」

 これからも“自在”でいたいという。

 「ステータスを手に入れたら、それをどんどん捨てて身軽にしていかないと、これから先、俳優として良い道に進めないような気がするんです。来年は50代になりますが、今後も仕掛けていき、自分をクリアにしていきたいですね」

 (ペン・加藤弓子 カメラ・寺河内美奈)

 ■まつしげ・ゆたか 1963年1月19日生まれ、49歳。福岡県出身。俳優。明治大学在学中に、演出家・三谷幸喜を中心に旗揚げした東京サンシャインボーイズの作品に多数出演。大学卒業後は、蜷川スタジオに入団。退団後、俳優業を一時辞めるが、復帰後、さまざまな作品で活躍。2007年、「しゃべれども しゃべれども」で毎日映画コンクール助演男優賞、09年、「ディア・ドクター」でヨコハマ映画祭助演男優賞を受賞。まめに更新するブログ「修行が足りませぬ」(http://matsushige.cocolog-nifty.com/blog/)も人気。

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