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ジョブズなら「今のiPhoneは古い」と怒る

 昨年末から年初にかけて、アップルの株価が暴落、時価総額で約48兆円が失われたという。部品メーカーも大きな打撃。中国のiPhone組み立て企業は、10月以降、5万人を解雇したとも伝えられている。

 アップルの独創の原点は1984年発売のサイコロ型PC、128KMacだ(私は今も保有)。これは知的作業道具の大革命だった。だが、Macを生み出した天才、スティーブ・ジョブズは、自らが招聘した「砂糖水」屋(ジョブスの言葉、前・ペプシコ社長)によってアップル社から追放された。そして、天才的独創を失ったアップルは超低迷に陥る。

 ジョブズがそのアップルに復帰したのは97年だ。翌年、斬新なデザインのiMacを出し大ヒット。以降、「i」はジョブズ=アップル独創の象徴となり、iPod、iTuens、iPadで音楽産業に大イノベーションを起こす。2007年には、21世紀の大発明ともいえるiPhoneを発表。だが、ジョブズは11年に膵臓(すいぞう)がんで56歳で逝去してしまった。「これでアップルも終わり」と不安だったが、アップルはジョブズの遺産、iPhoneの大ヒットを続け、累積出荷台数10億台を突破。アップル株の時価総額は日本の国家予算を上回る1兆1000億ドルを記録したこともあった。

 だが、iPhoneの基本は07年からの12年間、不変のままだ。「独創的製品」は自社製品すら否定する斬新な発想で産み出されることは、ジョブズの人生を振り返れば明らか。12年も前のかたちが売れ続けていることの方が不思議なのだ。株価暴落の原因はそこにある。

 私は、89年出版の『文庫版・スーパー書斎の仕事術』(文藝春秋)の表紙に、自分で描いた理想的な携帯端末の図を載せた(まだ日本語が使えなかった時代のマックで作成)。愛用の「ファイロファックス」(システム手帳)に液晶ディスプレー、小型キーボード、通信機能、超小型プリンターを装備。「こういう端末がほしい!」という希望を込めて描いたのだ。インターネット開始の5年前ゆえ、通信は有線電話回線に接続。紙の手帳に音楽やテレビ、ラジオも楽しめるアナログ・デジタル融合通信端末という提案だった。

 これが18年後にiPhoneとして実現した時には大感激した。94年の『マルチメディア版・情報の仕事術』(日本経済新聞)では、見開きでA3判となる「夢の端末」の自作模型(88年製作)を掲載した。これは、映画、テレビ、新聞、雑誌、書類、メール、ウェブなどあらゆる仕事が「書類サイズ」で閲覧、作業できる「デジタル紙」構想だったが、これもほぼ近い端末として、やはり22年後にジョブズがiPadとして届けてくれた。

 もっとも、私が渇望した端末の「画面」は、いずれも紙の自在さ、折りたたみ展開機能が必須だが、待てど暮らせど実現していない。もしジョブズが生きていたら、手のひらの上にパッとA4、あるいはA3サイズの画面が展開するようなiPhoneを、とっくに発表。アンドロイド端末を絶滅させる力をふるっただろう。

 アップルの株価暴落で、「iPhoneは古すぎるからだ」と書いた人はいない。だがジョブズは、「12年間、何やってきたんだ」と、あの世でカンカンに怒っているでしょう。(ノンフィクション作家・山根一眞)

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