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リー・アイアコッカ氏死去に思う…典型的な「ダメ経営者」

 米国の自動車産業の大物経営者だったリー・アイアコッカ氏が死去した。94歳だった。黄金期のフォード・モーターの社長を務め、その後、経営危機にあったクライスラー(現フィアット・クライスラー・オートモービルズ)の会長として同社を立て直したと言われる。

 アイアコッカ氏について、「米産業界を代表する辣腕経営者」と評価する声は高い。しかし、私は「ダメ経営者の典型」だったと思っている。

 フォードに入社したアイアコッカ氏は、若者に大ヒットした低価格のスポーツカー「マスタング」の開発責任者として頭角を現し、1970年に社長に就任した。私も米国にいたとき、マスタングに乗っていたが、確かにいいクルマだった。

 その後、創業者一族との対立で79年に社長職を解任されると、翌年、クライスラーの会長兼最高経営責任者(CEO)として迎えられた。

 当時、米国の自動車メーカーは石油ショックと日本車との販売競争で新車需要が落ち込み、クライスラーは破綻危機にあった。アイアコッカ氏は就任直後に米政府から15億ドルの債務保証を取り付けて資金調達し、中型車や小型車の開発に注力し、クライスラーを黒字経営に転換させた。これにより、「米国産業界の英雄」と称されるようになった。

 しかし、本業とは関わりのない事業に次々投資し、巨額の損失を出した。一時は良くても、結局、立て直しはしていない。米国における自動車メーカーのトップ4はGM、フォード、トヨタ、クライスラーの順。長期低迷で、トヨタにも抜かれてしまっている。

 それなのに、クライスラーを立て直したことを自画自賛し、自叙伝「アイアコッカ~わが闘魂の経営」は世界的な大ベストセラーになり、あろうことか、「アイアコッカを大統領に」という動きまであった。

 日米貿易摩擦が激化した80年代は「日本叩き」の急先鋒になり、「イエローペリル」(黄禍論)と言い始めて、多額の関税をかけろとか、数量規制しろとか、円安是正しろと騒ぎまくった。そういうことも大統領選出馬の期待にもつながった。

 日本をバッシングし、日本車の輸入に猛反対していながら、実は一番数多く日本から輸入していたのはクライスラーだった。当時、提携していた三菱自動車がOEM(他社ブランドの製品の製造)供給していたダッジ・チャレンジャーは爆発的に売れ、それもクライスラー復活に貢献した。

 米国の自動車における貿易不均衡の元凶のひとつは、クライスラーが日本から部品を買いまくっていたり、三菱にクルマを造らせて輸入したこともある。もちろんデトロイトの川向かいのカナダに主力生産基地を持っていたので、それも輸入として“貢献”していた。それなのに、知らん顔をして、「自分は米国のヒーローだ」と言い放っていた。

 ということで、アイアコッカという人は「最も美しく誤解されていたダメ経営者」の典型だ。「自分が」と実績を誇示し、貿易について、間違った考え方を持って間違った相手を非難する。これはドナルド・トランプ現大統領と100%似ている。

 20年ほど前、私はよく長期低迷を直さずに数年だけピクッと売り上げなどを改善する「ダメ経営者」の典型例として、アイアコッカ氏の名を挙げていた。偽物経営者とは何か、について彼から大いに勉強させてもらった。謹んでご冥福をお祈りいたします。

 ■ビジネス・ブレークスルー(BBTch)の番組「大前研一ライブ」から抜粋。

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