「湾岸」「タワマン」は過去のキーワードに!? 需要先食いのマンション業界…単純な志向を弱める可能性 榊淳司 マンション業界の秘密
昨年の今頃、新型コロナの感染拡大はまだひとごとだった。「ある日突然消えてなくなる」と、騙(かた)った某大国の大統領は、昨年末の選挙でその地位を失った。
振り返ってみれば、当時の安倍内閣の打ち出した景気対策は粗雑ではあったが効果はあった。
国民一人一人に10万円を給付し、企業には持続化給付金として200万円を支給するという前代未聞の政策が実行された。ほかにも、企業に対しては貸し出し金利がゼロであったり、年利0・1%での融資が受けられる制度も導入された。
2回にわたって組まれた補正予算の総額は約58兆円。事業規模は合わせて230兆円とされる。この「事業規模」が本当だったら日本のGDPは40%という驚異的な成長になったはずだが、実際のところはマイナス5・3%(IMF予測)に。
それは仕方がないとしても、日本経済がどん底の不況に陥ることを防いだのは確かである。第2次安倍内閣は7年半の長期間続いたが、見るべき成果がないという論評もあるものの、新型コロナに対応した景気対策は後世大いに評価される可能性が高そうだ。
現在の菅内閣はどうだろうか。
第3次補正予算は組まれたが、いかにも内容が乏しい。さらに、10万円給付などのバラマキ対策はもうやらないという方針も財務大臣から示されている。
この様子を見ていると、どうやらこれからやってきそうな本格的な不況に対して、われわれは自力で対応しなければならないらしい。菅首相も、しきりと「自助」というワードを表明していた。
足元の景気は何とも心もとない。東京商工リサーチによるとコロナによる倒産は1000件を突破したようだ。今後はこれが加速度的に増えそうな気配を感じる。
マンション市場はどうなのか。
昨年はテレワーク特需で部分的に潤った。自宅で仕事をするための環境を整えようと、狭い賃貸を脱出して都心やその近辺のミニ戸建てや、湾岸の中古タワマンを購入する動きがみられたのだ。しかし、そういった住宅購入はしょせん需要の先食いでしかない。
今年は景気対策のバラマキもないので、コロナによる需要の減少がマンションに限らず幅広い分野で顕在化しそうだ。それが企業業績に反映されると、いよいよ本格的な不況である。
希望はワクチンの普及だろう。接種率が高まれば年内にコロナ収束がみえるかもしれない。その後には飲食や観光などには回復傾向が出てくるはずだ。外出機会が増えれば、アパレルにも需要が戻る。
しかし、需要を先食いしたマンション業界に追い風は吹くかは疑問だ。
テレワークの普及や定着は、居住地の拡散傾向を促進し、これまでのような「都心近接」「駅近」という単純な志向を弱める可能性がある。
さらに言えば、「湾岸」や「タワマン」というコロナ以前の単純なベクトルは、過去のものにさえなりかねない。
■榊淳司(さかき・あつし) 住宅ジャーナリスト。同志社大法学部および慶応大文学部卒。不動産の広告・販売戦略立案・評論の現場に30年以上携わる(www.sakakiatsushi.com)。著書に「マンションは日本人を幸せにするか」(集英社新書)など多数。