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「焼肉文化」が醸成された町ならではの味の形 長野・飯田市の「黒もつ」

★絶品必食編

 現代日本の食は情報、物流ともに歴史上最高のインフラに支えられている。

 にもかかわらず、現地を訪れないと味わえないものがある。例えば、長野県飯田市の「黒もつ」がそれだ。

 飯田市は、日本有数の焼肉の町だ。週に3~4回の焼肉は当たり前。歓送迎会からメーデーまで、人が集まるときには必ず焼肉である。

 同市の人口は約10万人。今や生活に欠かせないコンビニでも約50軒、それより多い60以上の焼肉店が軒を連ねる。

 この地ではコンビニより焼肉店。飯田には凄まじい焼肉愛があふれているのだ。

 そんな飯田の焼肉店には、「黒もつ」という他の地方では見かけないメニューがある。飯田では、焼肉店のみならず、精肉店の肉コーナーやスーパーの精肉コーナーでも普通に見かける。

 飯田の「黒もつ」とは、その名前からもわかるように牛の内臓を指す。部位としては第一胃の「ミノ」から第二胃の「ハチノス」あたりまでを使うことが多い。

 「でも牛のミノは白いのでは?」という疑問ももっともだ。通常の焼肉店における「ミノ」は胃の内壁の黒い部分をはぎとって、成形したものを指す。

 しかし飯田には数年前まで市内に食肉処理場もあった。焼肉が日常に浸透しきっているこの町では、内臓を黒皮までまるごと食らう。

 独特の触感の黒い皮、さらに白い身との間にあるゼラチン質までも食べてしまおうという、飯田市民の貪欲な姿勢が黒もつというメニューには投影されている。

 面白いことにその食べ方は、市民の間でもわかれている。

 どの店で注文しても、黒もつはボイルされたものが提供される。肉を知る町ならではの下処理だが、表面をどう焼くかは人によって異なる。

 黒い側を軽くあぶればそれでOKという人もいれば、「黒い側をサクサクという食感になるまで焼く」という人も。

 生活に根ざすからこそ流儀が違えば、軽い論争に発展することもある。

 飯田の焼肉店には、各店が工夫を凝らした独自メニューと黒もつが同居している。それは「焼肉文化」が醸成された町ならではの味の形だ。

 ■松浦達也(まつうら・たつや) 編集者/ライター。レシピから外食まで肉事情に詳しく、専門誌での執筆やテレビなどで活躍。「東京最高のレストラン」(ぴあ刊)審査員。

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