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麹を硬く締める河村流を継承 静岡県「正雪」

 静岡県の由比は、東海道五十三次の16番目の宿場町。ここに、神沢川の名水を仕込み水に蔵を構える神沢川酒造場(静岡市清水区)がある。酒名は地元出身の兵法家、由井正雪にちなみ、正雪という。

 創業は大正元(1912)年。5代目蔵元の望月正隆社長は、静岡県酒造組合会長を務める重鎮だ。高度経済成長期には大手の大量生産に対抗し、周辺の7社で共同銘柄「霊峰富士」をつくっていたが、昭和40年代終わりに独立し、独自ブランドの正雪を立ち上げた。

 しかし、知名度のない酒を売るのは大変で、地元にはもはや入り込む余地はなく、やむなく東京の市場に活路を見いだすことになった。そこには、静岡吟醸の立役者、故・河村伝兵衛先生との出会いがあった。

 伝兵衛先生は昭和50年代、静岡県工業技術センターで、静岡の水に合う静岡酵母を開発したことで知られる。この酵母のおかげで、静岡酒は全国新酒鑑評会で金賞をとりまくり、一躍銘醸地となったのだ。

 伝兵衛先生の功績はそれだけではなかった。その頃静岡で酒づくりをしていた石川県の能登杜氏、静岡県の志太杜氏、岩手県の南部杜氏の仕事を研究し、河村流とでも言うべき独自の酒づくり理論を打ち立てたのだ。先生の薫陶を受けた望月社長は、当時のことをこう話す。

 「先生は毎朝4時頃蔵へ来て、仕込みと麹を見てアドバイスをし、私たちと朝ご飯を食べて、工業技術センターに出社していました」

 河村流の真骨頂は、麹づくりにある。通常、麹室は温度も湿度も高く、取材の際にカメラのレンズが曇って往生するものだが、静岡の麹室はカラカラに乾燥している。この中で、通常2日間で完成する麹を、3日かけてつくるのだ。こうして硬く締めに締めた吟醸麹と、軟水仕込みを引き立てる静岡酵母とが合わさることで、きれいで上品な静岡吟醸が生まれるのだ。

 「でも正雪は、当時のつくりそのままではありません。現代の嗜好に合わせるには、やはり工夫が必要です」

 ■江口まゆみ 酔っぱライター。世界中の知られざる地酒を飲み歩き、国内でも日本酒、焼酎、ビール、ワイン、ウイスキーのつくり手を訪ねる旅を続ける。大人気のラブコメ漫画『酒と恋には酔って然るべき』(秋田書店)の原案を担当。

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