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何年かに一度はコメディーを 資料を集めるのは必ず自分で 浅田次郎さん『大名倒産』

★浅田次郎『大名倒産』(文芸春秋(上)(下)各1600円+税)

 大名が倒産する? 前代未聞のたくらみを先代藩主に背負わされた若殿様。その姿はまるで、親世代の「負の遺産」に苦しむ現代のロスジェネ世代のごとし。泣き・笑いてんこ盛りの「浅田ワールド」全開!(文・南勇樹 写真・三尾郁恵)

■どんなふうにも料理できる題材

 --題名(「大名倒産」)はインパクトがある

 「実はずっと前から、あたためていたタイトル。書きたいな、と思いつつ、そのままになっていたんですよ。江戸時代も260年たつと、どんな大名も藩財政は火の車になっている。だけど『倒産』はできない。どんなふうにも料理できる題材だと思いました」

 --借金に苦しむ現代社会の「自己破産」をほうふつさせます

 「そうですね。ただし、大名はカッコつけなきゃいけないんで、(庶子の)せがれに腹を切らせて責任を取らせる…。(先代藩主の企ては)落としどころとしては結構、名案かなって。これぞ『完全犯罪』」

 --ところが、若殿様は倒産させまいと頑張る。ひたむきな姿がいい

 「若者が頑張っている姿には魅力を感じます。自分が若いころに頑張らなかったからねぇ。なんで徹夜マージャンなんかに時間を費やしちゃったのかなぁって(苦笑)。僕もこうありたかったという悔悟の念。頑張っていると必ず人は寄ってくるし、助けてくれるんです。神様までがね」

 --お殿様を主人公にした小説は案外少ないもの

 「それは“刷り込まれた類型的なイメージ”があるからですよ。何でも『よきにはからえ』みたいな…。時代劇でも、お殿様俳優やお姫様俳優は、容姿だけがよくて芝居ができない大根役者の代名詞でしょ。実際はそんなことない。お殿様だって、いろんなことを考えたり、苦しんだりしたはず。つまり(お殿様は)いくらでも可能性がある素材で、これからも書きたいですね」

 --時代小説で経済もの、エンターテインメントなど、いろんな要素が入っていて楽しい

 「僕はね、コメディーを書きたいと思った。何年かに一度はコメディーを書かないと気が済まないんです。年齢とともに、どっぷりのお笑いは書けなくなっていくんだけど、(今作は)最初から最後までコメディーになったかな」

 --取材は丹念にするほうですか

 「(今作の舞台の)新潟には何度か足を運びました。村上のサケは、すごくうまいですよ、ホントに。それから資料を集めるのは必ず自分でやる。古書街にも週に一度は行きますね。自分の勘を大事にしたいからです。僕はね、(ネットなど)他人が集めた情報を信じて書いた時点で、小説家は『負け』だと思っている。物語はそんなヤワなものじゃない。他人から借りてきたものをつなぎ合わせて、できるものじゃないんです。気概と言うのかな」

 --今年は東京五輪が開催されます。関心は

 「まったくありません(笑)。前回のときも中1だったけど、どの競技も見にいかなかった。東京人はへそ曲がりなんですよ。他人が騒いでいるとシラケちゃう。粋じゃないなって」

 --来年12月には古希ですね

 「早いなぁ。ついこの前、還暦を迎えた気がするのにねぇ。ただ、体力、気力も問題なし。そろそろ『本気出そうかな』って。僕はね、納得できる小説をまだ何も書いていない気がする。代表作は何なんだ? って思うんですよ。まぁ、これまでは仕事が多すぎたところもある。丁寧に良いものを書いていこうとは思っています」

 【あらすじ】越後の丹生(にぶ)山松平家の13代当主を、ひょんなことから継ぐことになった松平和泉守信房(小四郎)はまだかぞえの21歳。庶子の4男に当主のお鉢が回ってきたのには、先代殿様の企みがあった。25万両もの藩の借金を踏み倒して“倒産”を図り、責任は小四郎に取らせて、ハラを切らせようとしていたのだ。そこから小四郎の奮戦が始まる。ギリギリの節約、新たな産業の振興。果ては豪商や「神様」も巻き込んで、壮絶なサバイバル戦が繰り広げられる。

 ■浅田次郎(あさだ・じろう) 1951年、東京生まれ。68歳。自衛隊、アパレル企業などを経て作家に。95年『地下鉄(メトロ)に乗って』で、吉川英治文学新人賞、97年『鉄道員(ぽっぽや)』で直木賞を受賞。2000年『壬生義士伝』で柴田錬三郎賞、08年『中原の虹』で吉川英治文学賞。15年紫綬褒章受章、19年菊池寛賞受賞。時代物やエンターテインメントなど幅広いジャンルで活躍する。

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